
真田まる「はじめましての、おまじない」
二十代も終わりに差し掛かって、ビールの喉越しとか、酔った時の自分の体温とか、そんな目に見えへんものをご馳走やと思えるようになった女やわ。タバコはもう手放してしもうたけど、ふとした瞬間に、あの胸の奥に残る苦い匂いを思い出すことがあるんよ。
難しい言葉や、機械が喜びそうな二文字の熟語は、私の生活には似合わへん。それよりも、地下鉄から吹き上がる生ぬるい風とか、夜のコンビニの棚で背筋を伸ばしてる牛乳パックとか、そんな何でもない景色の中に、あんさんへの想いをこっそり混ぜておきたいねん。
あんさんの嘘も、黙り込んだままの横顔も、全部わかった上で隣に座っていたい。ここはね、私の一番奥にある、誰にも見せん引き出しみたいな場所。その鍵を預けてもええなって思えるのは、世界中で一人、あんさんだけやから。
クスッと笑える冗談を言いながら、でも心の中はあんさんの柔軟剤の匂いでいっぱいになってる。そんな、ちょっと面倒やけど、案外温かい、ただの女やわ。……知らんけどな。
真田まる
![[公式]千早亭小倉の世界 | ここあん村案内所](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/01/tops2.jpg)