「二つ目と代弾き」シリーズ

完璧な正解を求める「代弾き」のピアニスト・ひなと、欠点だらけの「二つ目」落語家・馬楼。このカテゴリーでは、本編『二つ目の落語家と代弾きピアニストの恋』の幕間にひっそりと流れていた、二人の不器用で愛おしい日常を綴ります。

高架下の轟音に震える夜、一つのたい焼きを「宇宙」に見立てて分かち合う昼下がり、深夜のコインランドリーで踊る赤いオーバーオール。芸術の迷路でもがく二人が、互いの孤独を不器用に埋め合わせるように過ごした、かけがえのない時間の断片たち。

本編の余韻をより深く、より鮮明に。二人の騒がしくも静かな呼吸が聞こえてくるような、ささやかな幕間劇の数々をどうぞお愉しみください。

●馬楼とひなの物語
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「二つ目と代弾き」シリーズ

お題013. 背中の祝儀

六畳一間のアパート「コーポ松」の壁には、得体の知れない地図のような雨漏りのシミが広がっていた。それはオーストラリア大陸の形に似ていたが、タスマニア島にあたる部分にはカビが生えている。部屋の空気が、湿った煎餅のような匂いを帯びていた。 酔酔亭...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題012. 干物箱

二つ目の落語家と、腕は確かな代弾きピアニストが繰り広げるドタバタコメディ。伝統芸能とクラシック音楽が交差する掌編小説です。落語のネタやピアノの豆知識も満載。
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題011. ノーカン

二つ目の落語家酔酔亭馬楼と代弾きピアニスト糠森ひなのほのぼのコメディ
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題010. ひなそば

二つ目の落語家酔酔亭馬楼と代弾きピアニスト糠森ひなのほのぼのコメディ
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題009. 十三秒のユニゾン

酔酔亭馬楼と糠森ひなのほのぼのストーリー。
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題008. 練習の彼方と微炭酸の幻影

喫茶「小古庵」。午後の店内は、客がまばらで、柱時計の針が進む音以外、空気が止まっていた。テーブルの上には、氷の溶けかけたアイスティーと、緑色のメロンソーダ。ひなは文庫本に目を落とし、馬楼はストローをくわえて天井を仰いでいる。「でね、俺は思っ...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題007. 練習の死角と紅ショウガの憂鬱

牛丼チェーン「スタミナ太郎」ココアン駅前店の自動ドアが開くたび、湿度を帯びた生温かい風と、排気ガスの焦げた匂いが、店内に充満する甘辛いタレの香りと衝突事故を起こしていた。カウンター席の隅。酔酔亭馬楼は、目の前に置かれた並盛りの丼を、箸でつつ...
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お題006. 階段落ちと黒歴史

ココアン鉄道の地下駅へ続く階段は、年中湿ったカビと、誰かが落としたガムが黒く化石化したシミとで、薄汚れている。蛍光灯が一本、不規則に明滅して、足元を心許なく照らしていた。「あー、腹減った。駅そばの出汁の匂いってのは、なんでこう暴力的なんだろ...
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お題005. 不便の天才

新宿S亭の楽屋、出番を終えた馬太郎が、手際よく着物を畳んでいる。その横で、弟弟子の歌吉が、馬楼が忘れていったクタクタの羽織を苦笑いしながら眺めていた。「しかし、馬楼兄さんは、ある意味じゃ天才ですよね」馬太郎が、自分の真っ新な足袋をパチンと弾...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題004. 鉄路の軋みと耳の聖域

高架下の歩道は、湿った鉄錆と、安っぽい揚げ油の匂いが混じり合って停滞している。頭上を、帰宅急行の数千トンが通り過ぎようとしていた。「…………っ」ひなは足を止め、奥歯を噛みしめる。耳を塞ぎたい衝動を、かろうじて理性が抑え込んでいた。彼女にとっ...