「二つ目と代弾き」シリーズ

「二つ目と代弾き」シリーズ

お題003. 白と黒の不均衡

スタジオの防音扉が閉ざされた密室には、空調の微かな駆動音だけが沈殿している。ひなは、練習の手を止め、グランドピアノの鍵盤蓋フォールボードの黒塗りに映り込んだ、自分の指先を見つめていた。二十五年以上、毎日飽きもせず叩き続けてきた八十八個の並び...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題002. たい焼きの切り身

築四十年の木造アパート「メゾン干物箱」の二階には、昼下がり特有の、煮出したはぶ茶のような香ばしくて気怠い匂いが漂っている。西日が腰をかがめて、破れた障子の隙間から差し込み、畳の上に細長い光の鍵盤を描く。その光の上で、馬楼とひなが向かい合って...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題001. 遠心力と赤い抜け殻

自販機のコンプレッサーが時折、不機嫌そうな唸りを上げる以外、世界は回転するドラムの音だけに塗り潰されていた。乾燥機の排気口から漏れ出る、熱せられた綿埃の匂いが、深夜のコインランドリーの空気を重く塞いでいる。お決まりのムワッ。窓の外の小雨がこ...