ここあん村クロニクル

た行

徒 然士

ただ せんじ年齢・性別:51歳・男性肩書:小説家、文芸評論家、私立ここあん大学日本文学科講師・・・はっ、さて。諸君、静粛にしたまえ。これから、このわぁたくしが、わぁたくし自身のことを、わぁたくしのために語ってやろうというのだ。心して聴くよう...
椎名町3丁目「ものがたり屋」シリーズ

椎名町助とおはぎまる

第1編:居酒屋『海(うみ)』の濁り酒椎名町3丁目の夜は、古びた毛布のように重たくて温かい。居酒屋「海」の暖簾をくぐると、揚げ物の匂いと安酒の蒸気が、町助まちすけの青い帽子を優しく包んだ。彼はカウンターの隅に座り、お通しのポテトサラダを箸の先...
椎名町3丁目「ものがたり屋」シリーズ

3丁目駅、鉄美鈴の夜

二十三時十一分。赤色灯が二つ、暗がりの奥へと吸い込まれていった。M鉄道からここあん鉄道へ乗り入れる、3丁目駅経由タウン駅行き最終列車。ここあん鉄道職員の鉄美鈴はホームの端で、背筋を真っすぐに伸ばして立っていた。右手の指をピンと伸ばし、誰もい...
ブックカフェ「シズカ」シリーズ

月の裏側の観測

スタシス・エイドリケビチェス『クレセント・ムーン』に着想を得て。
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題009. 十三秒のユニゾン

酔酔亭馬楼と糠森ひなのほのぼのストーリー。
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題008. 練習の彼方と微炭酸の幻影

喫茶「小古庵」。午後の店内は、客がまばらで、柱時計の針が進む音以外、空気が止まっていた。テーブルの上には、氷の溶けかけたアイスティーと、緑色のメロンソーダ。ひなは文庫本に目を落とし、馬楼はストローをくわえて天井を仰いでいる。「でね、俺は思っ...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題007. 練習の死角と紅ショウガの憂鬱

牛丼チェーン「スタミナ太郎」ココアン駅前店の自動ドアが開くたび、湿度を帯びた生温かい風と、排気ガスの焦げた匂いが、店内に充満する甘辛いタレの香りと衝突事故を起こしていた。カウンター席の隅。酔酔亭馬楼は、目の前に置かれた並盛りの丼を、箸でつつ...
SPOT

ものがたり屋

崩れた物語を編み直す、消える路地の聖域椎名町3丁目。昭和の幻影を上映し続ける映画館「まひる座」と、潮騒の匂いが染み付いた居酒屋「海」。その狭間に、大人一人が肩を窄めてようやく通れるほどの細い路地がある。その先にある蔦に覆われた築六十年の古民...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題006. 階段落ちと黒歴史

ココアン鉄道の地下駅へ続く階段は、年中湿ったカビと、誰かが落としたガムが黒く化石化したシミとで、薄汚れている。蛍光灯が一本、不規則に明滅して、足元を心許なく照らしていた。「あー、腹減った。駅そばの出汁の匂いってのは、なんでこう暴力的なんだろ...
真田まる「夜明け前のひとりごつ」

止まり木の温度

この木の板、見てみて。 誰かの手のひらが、何年もかけて、 ゆっくりとなでてきた跡があるわ。 角がとれて、つるつるになって、 まるで、よく知ってる人の肌みたい。おでんの湯気の向こう側で、 あんさんの眼鏡が、 ふんわり白く曇るのを、 私は、隣で...