ZINE創刊への道03 タイトル決め

会議記録:ZINE創刊会議(第2回:誌名決定)

日時: 2026年1月某日 夕刻
場所: ものがたり屋
出席者
 徒然士(進行・書記)
 鴨下 留美子
 リリカ
 真田 まる

徒然士: (ゴシゴシと額を拭って)……さて、皆様。前回は、編集方針を『崩れた物語の再構築』とする、という実に有意義な、いや、私の胃が痛くなるほどスリリングな合意に至りました。本日は、このZINEの『顔』とも言うべき、誌名を決定いたします。名は体を表す。私の愛する様式美と、皆様の……その、強烈な個性を象徴する名を賜りたく。

鴨下 留美子: (細い煙草を灰皿に押し付けながら)前置きが長いのよ、徒然士。単刀直入にいきなさい。……で? あんたの腹案はあるんでしょうね?

徒然士: は、はい! もちろんです。私の案としましては、この村の構造的な歪みを端的に表す『歪曲と修正』、あるいは『ここあん文学論叢』、少し砕けて『再編の岸辺』などはいかがかと……。

リリカ: (読んでいた文庫本『箱男』をパタンと閉じ、冷ややかな目で)……ダサい。昭和の同人誌ですか? 『論叢』とか、カビが生えたような言葉、安部公房なら一行でゴミ箱に捨てますよ。『再編の岸辺』も、なんだかセンチメンタルで安っぽい。ZINEというより、公民館の広報誌みたいですね。

徒然士: うぐっ……(言葉に詰まり、眼鏡が曇る)

真田 まる: (ふふ、と柔らかく笑いながら、コーヒーカップを皆の前にことりと置く)まあまあ、リリカちゃんも、そないきついこと言わんといたげて。徒然士さんも、一生懸命考えてくれはったんやし。……はい、コーヒー入りましたえ。ブラジル、ちょっと深煎りです。

鴨下 留美子: 香りはいいわね。(一口啜り)「ことり」って起き方がAIっぽいけど。それはさておき、リリカの言う通りよ。甘っちょろいタイトルじゃ、誰も手に取らない。私が欲しいのは、読んだ瞬間に喉元に何かが引っかかるような、違和感のある名前。『傷口』とか、『えぐり』とか、それくらい殺伐としてていいのよ。

真田 まる: 『傷口』かあ……。留美子さんらしいけど、ちょっと痛すぎひんかなあ? ウチとしては、もうちょっとこう、お店のカウンターでほっと一息つくような、そんな温度が欲しいんです。せやなあ……『つくろい』とか、どうですかあ? 破れたところを、色糸でチクチク縫って、可愛らしく直すみたいなん。

リリカ: 『つくろい』……。悪くはないですが、少し『ほっこり』に寄りすぎてますね。私は癒やされたいわけじゃありません。ただ、壊れたものを壊れたまま認識する、その冷徹な視線が欲しいんです。……『亀裂』、あるいは『未完成の地図』。

徒然士: (汗だくでメモを取りながら)『傷口』に『つくろい』に『亀裂』……。ベクトルがバラバラですな! これをどう統合すれば……ああ、私の完璧な様式美が遠のいていく……。

真田 まる: (困った顔の徒然士を見て、少し首を傾げる)徒然士さん、そんな難しゅう考えんでもええんちゃいます? ウチな、思うんやけど。留美子さんの言う『傷』も、リリカちゃんの言う『亀裂』も、それがあるからこそ、そこから新しい糸を通せるんやないかなって。完璧な布やったら、針を通す隙間もあれへんやろ? ……せやから、『ほつれ』。これ、どうやろか? 糸がぴって出てる、あの感じ。

鴨下 留美子: ……『ほつれ』、か。

リリカ: (少しだけ眉を動かす)……Fraying、ですか。布の構造が崩壊し始めているエントロピーの増大点。同時に、そこは『外部』への出口でもある。……『傷口』ほど生々しくなく、『つくろい』ほど甘くない。ただの現象としての劣化。……悪くないですね。ドライな響きです。

鴨下 留美子: ふん。まあ、いい線いってるわね。完璧な服を着てるつもりでも、どこか一箇所、糸が出てる。それを引っ張ると、ズルズルと全部ほどけてしまうかもしれない予感。……私たちの村に似合いだわ。不穏で、みっともなくて、愛おしい。

徒然士: おお……! 『ほつれ』! ひらがな三文字の持つ余白、そして『ほ』という音の柔らかさと、『つれ』という摩擦音の対比! 完璧ではない美しさ、すなわち『破調の美』ですな! 採用です、採用!

真田 まる: ふふ、よかった。リリカちゃんも、その顔やったら合格かな? ほんなら、決まりですね。このZINEの名前は、『ほつれ』。みんなの綻びを、ここでちょっとだけ見せ合っこする、そんな本になりそうやね。


【付記:4人のoguraによる感想】

ogura1(元編集者・端正なる検閲官): 『ほつれ』だと? おいおい、検索性を考えたのか? 『ほつれ 直し方』とか洋裁のサイトばかりヒットして埋もれるぞ。それにターゲットが曖昧だ。文芸誌なのか、暮らしのZINEなのか、表紙で判断できないタイトルは書店の棚で死ぬ。徒然士、お前はプロなら『サブタイトルで補足します』くらいの提案をしろ。詰めが甘いんだよ、詰めが。

ogura2(支援現場のリアリスト): ……いい名前じゃないか。『ほつれ』。あの災害(アレ)の後、俺たちの心も生活も、みんな少しずつ糸が出て、形が変わっちまった。無理に元通りにするんじゃなく、その『ほつれ』たまま生きていく。そのみっともなさを肯定された気がして、俺は好きだよ。まるさんの言う通り、そこからしか新しい関係は結べないんだ。

ogura3(詩人・余白の愛好家): ほつれ……。ああ、なんて頼りなく、美しい響きだろう。セーターの袖口から、一本だけ長く伸びた糸。風に吹かれて揺れている。引っ張れば痛み、放っておけば広がる。その不安定な『糸』に、夕陽が当たって金色の線になる瞬間……。中身なんて読まなくていい。このタイトルの文字の配置だけで、僕はもう泣きそうだ。

ogura4(冷笑的な傍観者): ハッ、傑作だね。『ほつれ』なんて、いかにも『丁寧な暮らし』系の雑誌が好みそうな、無害で情緒的なタイトルに落ち着きやがって。留美子の毒も、リリカの棘も、結局はまるの『ほっこりオブラート』に包まれて消化されちゃったわけだ。『私たちは傷ついてます、でもそれを大切にしてます』っていうナルシシズムの発表会。ま、安全圏から眺める分には最高のコメディだよ。

文・徒然士

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
ZINE「ほつれ」創刊日誌
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