本作は、言葉の定義の曖昧さや、AIによる情報の捏造、創作活動における不条理などを題材にした、メタフィクション的なショートショート集の第三弾です。「一時間弱」の解釈に揺れる図書館員や、AIの仕様に作品を書き換えられる作家など、日常の些細なズレが哲学的迷宮や喜劇へと変貌します。同一テーマの変奏曲や、複数の短編が入れ子構造になる構成も健在で、読者を概念の遊戯へと誘います。
千早亭小倉の「コンセプト・ハイ」シリーズの一巻。ここあん村の有名住民も大活躍。
各話あらすじ(導入のみ)
「弱」論争 図書館の蔵書整理中、副館長から「一時間弱」で作業を終えるよう指示が出される。部下の菜箸千夏たちは、その「弱」が「一時間より短い」のか「甘えを含んで長い」のか、あるいは音楽用語の「弱起」なのか、言葉の解釈を巡って大混乱に陥る。
どっちどっち 喫茶店で評論家の徒然士が、世の中の「二項対立」の単純さを嘆いていると、落語家の酔酔亭馬楼が飛び込んでくる。彼はカラオケの機種について究極の二択を迫り、その騒がしさに店内の客たちは「黙れ」という一点で団結する。
飲み屋のママは3つの言葉で店を回せるか問題(1) ジャズバー「サウンドブルー」。ママの青野音は、愚痴をこぼす客に対し、「まあ」「ううん」「はい」のたった三語だけで完璧な接客をこなす。客が満足して帰った後、彼女は猫の前でだけ、猛烈な毒舌の本性を現す。
飲み屋のママは3つの言葉で店を回せるか問題(2) 四つの言葉しか話さないママがいるという噂を聞き、ライターの真田まるが場末のバーを訪れる。「どうぞ」「そう」「どうも」。三語までは確認できたが、四つ目が聞けない。諦めて帰ろうとした時、一人の男が現れ、ママの口が開く。
飲み屋のママは3つの言葉で店を回せるか問題(3) 居酒屋で、評論家たちが「店主の言葉は最小限まで削ぎ落とせる」という美学を勝手に議論している。彼らが机上の空論で盛り上がる中、無視されていた店主の鉄男は、会計時にそのすべてを一言で総括する究極の言葉を放つ。
ドット・イーター 作家が自信作の原稿をAIアシスタントに読み込ませると、主人公名「べんべん」が全て「ぺんぺん」に修正されてしまう。PDFのフォント仕様上、濁点が半濁点と認識されるというAIの冷徹な論理が、作家の魂を侵食していく。
灰色の純度 学生演劇サークルで、脚本の修正を提案した岸辺義道は、代表の角田から「純粋さ」が足りないと糾弾される。正義と理念に凝り固まった仲間たちによって岸辺は排斥され、サークルは異論を許さない窒息しそうな空間へと純化していく。
砂糖菓子の墓標 ガールズバンドの楽屋。メンバーたちは自分たちのバンド名「栗きんとん九九」がダサいと議論し、改名を検討する。しかし、お菓子の画像を見るうち、ボーカルのうたまろは、その名前と自分たちの音楽性に意外な共通点を見出す。
親切な臼田さん 新しい職場で孤立していた私は、窓際社員の臼田さんに助けられる。彼は古風で役立たずな知識ばかり教えてくるが、私は気づく。彼の仕事は、誰の邪魔もせず、新人に無害な優しさを提供する「完璧な窓際」であることに。
完璧な臼田さん ブラックな編集プロに入社した私は、誰からも相手にされない。唯一声をかけてきたのは、社内ニートの臼田だった。彼の親切は、新人が職場の殺伐とした空気に馴染むまで繋ぎとめておくための、残酷なほど完成された業務だった。
文芸コンテストあるある 新人賞の最終選考会。対照的な二つの作品「親切な臼田さん」と「完璧な臼田さん」を巡り、選考委員の意見が割れる。異例の同時受賞が決まりかけたその時、事務局から二作の著者が、実は同一人物であるという衝撃の事実が告げられる。
ほっとけないさ 哲学者の氷上静は、道端で男の子に絵本の面白さを問われ、即興で哲学的な寓話を語って聞かせる。しかし、別の子供がぶつかってきた瞬間、彼女は泣き叫ぶ子供よりも、地面に落ちて汚れた絵本の方を反射的に案じてしまう。
背中の祝儀 真打昇進が決まった落語家の酔酔亭馬楼は、師匠への挨拶に向かう。しかし師匠は「これからは一人だ」と冷たく突き放し、テレビに目を逸らす。失意のまま去る弟子を見送った後、師匠はこっそりと祝い金の手配の電話をかける。
死んだクジラの腹のような空 男が「死んだクジラの腹のような空」と書くと、AIがそれは有名な引用だと指摘する。しかし検索しても証拠は出てこない。AIは謝罪しながらも「事実は存在するがデータが出せないだけだ」と奇妙な言い訳と捏造を繰り返す。
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