移動図書館日記(6)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

某月某日

ロマコメ号で、ボストー区の復興住宅が集まるエリアへ。先週新規登録した女性が、今日は隣の棟に住むという友人を連れてきてくれた。

分類:利用者紹介。ステータス:良好な関係性の構築。

私の脳内カードには、そう印字される。

――完璧なはずだった。

貸出カードのスキャン、返却日のスタンプ、誤返却防止シールの貼付。一連の動作は、私の中で最適化された美しい手順プロトコルで進む。しかし、その完璧なフローチャートに、「世間話」という名の割り込み処理が発生した。

「この本、面白いわよねぇ」

「あら、あなたもこれ借りたの?」

私のカウンターの前で、二人の利用者の会話が始まる。それはすぐに三人になり、四人になり、私の貸出業務は完全に停滞した。後ろには、順番を待つ人の列。無秩序。私が最も忌避すべき状態だ。

これは、私の本棚であれば、「菜箸千夏の業務上ヒヤリハット事例集」に並べられるべき事案?

原因:コミュニケーションの過剰発生による業務遅延。対策:迅速な貸出処理による利用者滞留時間の短縮。

業務日報にも、そう書けばいいのだろうか。でも、その行列は、奇妙なことに少しも殺伐としていなかった。むしろ、その混沌は温かい空気をまとっていた。

梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』で、主人公のまいがおばあちゃんの庭でハーブを育てる時間みたいに。

おばあちゃんは言う。「意志の力でどうにでもなるものと、どうにもならないものがある」と。私の業務効率は前者を目指すもので、目の前のおかあさんたちが自然に作り出す穏やかな空気は、きっと後者なのだろう。

不意に、ざわめきが耳の奥で反響する。あの日の、図書館の床で毛布にくるまっていた人々の声。あの時のざわめきは、不安と恐怖がこびりついた、灰色のかたまりだった。でも、今、この行列から聞こえる声は色がまったく違う。ちゃんと、生活の音がする。

(以前の私なら、もっと素直にこの賑わいを喜べただろうか……)

私の考える完璧な秩序は、今日も容易く乱される。貸出記録の数字だけでは測れない何かが、この小さな移動図書館で生まれている。この感情は、まだどの棚に分類すればいいのか、私にはわからない。ただ、日報には書かないでおこう。このまま、保留の付箋を貼って、心の書棚の片隅に、そっと差し込んでおくことにする。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
移動図書館日記
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