これは、日記という名を借りた私の記憶。
某月某日
ロマコメ号で、ボストー区の復興住宅が集まるエリアへ。先週新規登録した女性が、今日は隣の棟に住むという友人を連れてきてくれた。
分類:利用者紹介。ステータス:良好な関係性の構築。
私の脳内カードには、そう印字される。
――完璧なはずだった。
貸出カードのスキャン、返却日のスタンプ、誤返却防止シールの貼付。一連の動作は、私の中で最適化された美しい手順で進む。しかし、その完璧なフローチャートに、「世間話」という名の割り込み処理が発生した。
「この本、面白いわよねぇ」
「あら、あなたもこれ借りたの?」
私のカウンターの前で、二人の利用者の会話が始まる。それはすぐに三人になり、四人になり、私の貸出業務は完全に停滞した。後ろには、順番を待つ人の列。無秩序。私が最も忌避すべき状態だ。
これは、私の本棚であれば、「菜箸千夏の業務上ヒヤリハット事例集」に並べられるべき事案?
原因:コミュニケーションの過剰発生による業務遅延。対策:迅速な貸出処理による利用者滞留時間の短縮。
業務日報にも、そう書けばいいのだろうか。でも、その行列は、奇妙なことに少しも殺伐としていなかった。むしろ、その混沌は温かい空気をまとっていた。
梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』で、主人公のまいがおばあちゃんの庭でハーブを育てる時間みたいに。
おばあちゃんは言う。「意志の力でどうにでもなるものと、どうにもならないものがある」と。私の業務効率は前者を目指すもので、目の前のおかあさんたちが自然に作り出す穏やかな空気は、きっと後者なのだろう。
不意に、ざわめきが耳の奥で反響する。あの日の、図書館の床で毛布にくるまっていた人々の声。あの時のざわめきは、不安と恐怖がこびりついた、灰色のかたまりだった。でも、今、この行列から聞こえる声は色がまったく違う。ちゃんと、生活の音がする。
(以前の私なら、もっと素直にこの賑わいを喜べただろうか……)
私の考える完璧な秩序は、今日も容易く乱される。貸出記録の数字だけでは測れない何かが、この小さな移動図書館で生まれている。この感情は、まだどの棚に分類すればいいのか、私にはわからない。ただ、日報には書かないでおこう。このまま、保留の付箋を貼って、心の書棚の片隅に、そっと差し込んでおくことにする。
これは、日記という名を借りた私の記憶。
![[公式]千早亭小倉の世界 | ここあん村案内所](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/01/tops2.jpg)

