これは、日記という名を借りた私の記憶。
今日から、これを書くことに決めた。
業務日報の、あの小さな「特記事項」の欄だけでは、もう足りないからだ。
高島課長は、私の日報を「ポエムだ」と評した。貸出冊数という無機質な数字の横に、私が書き添えた言葉たち。そこに、秩序を乱す「情緒」が混入していると。
その通りなのだろう。課長の言うことは、いつも正しい。
けれど、私にとって、日々の出来事は、ただの「出来事」として完結してはくれない。
移動図書館車のカウンターに差し出された、一冊の本。集会所で聞いた、誰かのふとした呟き。それらが引き金となって、私の内側では、時系列も分類も無視して、あの日の記憶が蘇る。
埃と消毒液の匂い。将棋倒しになる書架の音。すべてが等しく瓦礫と化した、あの巨大な無秩序の手触り。
私がこのノートに書き留めたいのは、「今日何があったか」という乾いた事実だけではない。
その出来事に触れた瞬間、私の守ろうとする完璧な「秩序」と、制御不能な「混沌」の記憶が、どうしようもなく衝突した、その「痕跡」そのものだ。
だから、これは単なる日記ではない。
日々の出来事をきっかけにして、私の内側で呼び覚まされる「記憶」を、どうにか言語化し、分類し、自分の書棚に収めようと試みる、必死の「再構成」の記録だ。
業務日報には書けない、分類不能なものたち。
高島課長に「ポエム」と切り捨てられた、行き場のない言葉たち。
それらを、せめてこの場所だけには、書き留めておく。
これは、私が私であるための、脆くて、けれど唯一の防衛線。
だから、これは日記という名を借りた、私のための記憶なのだ。
(菜箸千夏記す)
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