LIFE

「二つ目と代弾き」シリーズ

お題009. 十三秒のユニゾン

酔酔亭馬楼と糠森ひなのほのぼのストーリー。
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題008. 練習の彼方と微炭酸の幻影

喫茶「小古庵」。午後の店内は、客がまばらで、柱時計の針が進む音以外、空気が止まっていた。テーブルの上には、氷の溶けかけたアイスティーと、緑色のメロンソーダ。ひなは文庫本に目を落とし、馬楼はストローをくわえて天井を仰いでいる。「でね、俺は思っ...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題007. 練習の死角と紅ショウガの憂鬱

牛丼チェーン「スタミナ太郎」ココアン駅前店の自動ドアが開くたび、湿度を帯びた生温かい風と、排気ガスの焦げた匂いが、店内に充満する甘辛いタレの香りと衝突事故を起こしていた。カウンター席の隅。酔酔亭馬楼は、目の前に置かれた並盛りの丼を、箸でつつ...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題006. 階段落ちと黒歴史

ココアン鉄道の地下駅へ続く階段は、年中湿ったカビと、誰かが落としたガムが黒く化石化したシミとで、薄汚れている。蛍光灯が一本、不規則に明滅して、足元を心許なく照らしていた。「あー、腹減った。駅そばの出汁の匂いってのは、なんでこう暴力的なんだろ...
真田まる「夜明け前のひとりごつ」

止まり木の温度

この木の板、見てみて。 誰かの手のひらが、何年もかけて、 ゆっくりとなでてきた跡があるわ。 角がとれて、つるつるになって、 まるで、よく知ってる人の肌みたい。おでんの湯気の向こう側で、 あんさんの眼鏡が、 ふんわり白く曇るのを、 私は、隣で...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題005. 不便の天才

新宿S亭の楽屋、出番を終えた馬太郎が、手際よく着物を畳んでいる。その横で、弟弟子の歌吉が、馬楼が忘れていったクタクタの羽織を苦笑いしながら眺めていた。「しかし、馬楼兄さんは、ある意味じゃ天才ですよね」馬太郎が、自分の真っ新な足袋をパチンと弾...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題004. 鉄路の軋みと耳の聖域

高架下の歩道は、湿った鉄錆と、安っぽい揚げ油の匂いが混じり合って停滞している。頭上を、帰宅急行の数千トンが通り過ぎようとしていた。「…………っ」ひなは足を止め、奥歯を噛みしめる。耳を塞ぎたい衝動を、かろうじて理性が抑え込んでいた。彼女にとっ...
真田まる「夜明け前のひとりごつ」

散歩

散歩なぁ…。私にとったら、あれは「世界の迷子ごっこ」みたいなもんやわ。自分の足音が、アスファルトに「ここに居るで」って刻印を押していくんやけど、あんさんが隣におらんと、自分がホンマに存在してるんか怪しなる時があるねん。景色もな、フィルター一...
ここあん高校文芸部

「炭酸の飽和水準と、笑顔の遅延について」/神崎一樹

【作品No.03】 タイトル:『炭酸の飽和水準と、笑顔の遅延について』 執筆者:神崎 一樹(C組) スタイル:構造解析的リアリズム 自動販売機の取り出し口には、冷気を含んだ湿った空気が溜まっていた。指先がアルミ缶の結露に触れ、摩擦係数が急激...
「二つ目と代弾き」シリーズ

お題003. 白と黒の不均衡

スタジオの防音扉が閉ざされた密室には、空調の微かな駆動音だけが沈殿している。ひなは、練習の手を止め、グランドピアノの鍵盤蓋フォールボードの黒塗りに映り込んだ、自分の指先を見つめていた。二十五年以上、毎日飽きもせず叩き続けてきた八十八個の並び...