地質学的欲求と経済的飢餓

場所:ここあん大学早稲田キャンパス、学生ラウンジ地下1F「アンコンフォーミティ」。コーヒーの香りとカビ臭が漂う、外界から隔絶された空間。

登場人物
環奈(古生物学):万事を数億年単位で捉えるため、目の前の「金欠」を「地層形成のわずかな摩擦」と見なす女。汚部屋を『地層』と言い張る。
エリ(進化心理学):自分のワガママや強欲さを「生存戦略」「ナッシュ均衡」といった用語で正当化する。本能のままに生きる強欲クイーン。

(泥だらけの作業着の環奈と、ブランドバッグを抱えたエリ。エリはチャートを睨み、環奈は床のピーナッツを凝視している)

エリ
エリ

見て、この仮想通貨。午前の値動き、完全に「集団パニック行動」の典型ね。群れが理性を失ってる。

環奈
環奈

(エリの話は聞いていない。床のピーナッツを摘み上げ)……ピーナッツ。満腹中枢が警報を鳴らす前に、緊急離脱した化石だわ。

エリ
エリ

人類の欲求の最短経路の話をしてるというのに。(スマホの通知音)……かっ、今夜の夕食代が! バイトリーダーのミスでシフトが消えた。

環奈
環奈

何を焦るの? 古生物なんて数億年かけてゆっくり絶滅する。その遅行こそが美学よ。

エリ
エリ

それなら、飢餓を「先行投資」と言い張って誰かに奢らせる生存戦略に美学を感じるわ。今の私はね。一刻も早い富の再分配が必要だわ。

環奈
環奈

ふーん、「適応放散」ね。他人の財布というニッチな資源から、いかに多様な食事を引き出すか。

エリ
エリ

進化論で上書きしないで。今必要なのはジュラ紀のロマンじゃなく、鶏白湯麺なの。レモンの酸味で脳内ドーパミンを叩き直さないと、システムがダウンする。

環奈
環奈

レモン……。あれは酸味による「別個体」への擬態ね。いわゆる「おしゃれ枠」。

エリ
エリ

(痛いところを突かれた顔で)分析やめて。……待って、そのピーナッツ、湿気てない。

環奈
環奈

ええ。これは「埋蔵資源」よ。これを摂取すれば、あなたも「カロリーの再分配」が完了する。

エリ
エリ

(底冷えする視線)絶対に嫌。床のピーナッツは私が目指す「富」じゃない。それは、あなたたちが愛でる「堆積構造の最下層」でしょう。

おしまい

作・千早亭小倉 with ぼすとーこ

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