この木の板、見てみて。 誰かの手のひらが、何年もかけて、 ゆっくりとなでてきた跡があるわ。 角がとれて、つるつるになって、 まるで、よく知ってる人の肌みたい。
おでんの湯気の向こう側で、 あんさんの眼鏡が、 ふんわり白く曇るのを、 私は、隣でじっと見てる。
外の風は、 包丁みたいに鋭いけれど、 ここだけは、 お風呂あがりの、あの、 足の裏のぽかぽかがずっと続いてるみたいや。
グラスが板を叩く音が、 夜の静けさに、やさしく溶けていく。
ねぇ、あんさん。この温もり、 明日まで、こっそり 上着のポケットに入れて、持って帰れたらええのにね。
真田まる
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