氷上静

掌編「物語の寄港地」シリーズ

掌編「湖畔の庵」

六月の雨は、森の匂いを濃くしていた。災害が作ったという湖は、そのすべてを飲み込んで静まり返っている。水面と空との境界線は、灰色の雨に溶けてどこまでも曖昧だ。そのブックカフェは、湖の岸辺に忘れられたようにぽつんと建っていた。二階建ての、切妻屋...
ブックカフェシズカ

掌編「寄港地の午後」

六月の光は、ブックカフェ『シズカ』の床に、気の早い夏の気配を運んでいた。レコードプレーヤーの針が拾う、かすかなノイズの向こう側で、ビル・エヴァンスのピアノが思索するように鳴っている。その音に紛れるようにして、乾いた紙の擦れる音が、時折、静寂...
掌編「物語の寄港地」シリーズ

掌編「寄港地のピアニスト」

秋の陽光が、災害で生まれた湖のきらめきをブックカフェ『シズカ』の店内へ届け、床にくっきりとした光の四角形を描いていた。その光の領域を避けるように、客が一人、厚い学術書に顔を埋めている。レコードプレーヤーからは、キース・ジャレットのケルン・コ...
Kindle

千早亭小倉著『水底に差す月光の輝きをキミはまだ知らない。』

ここあん村(旧ココアン区)が舞台の物語(1)『水底に差す月光の輝きをキミはまだ知らない。: 氷山女と深海男』千早亭小倉著/Kindle版水底の月光、氷の哲学者その冷たさの奥にある輝きを、まだ誰も知らない。孤高の女性哲学者と、彼女の心に触れた...