本作は、桃太郎やAI、紙幣といった既存の概念や物語の定型を解体し、再構築する実験的なショートショート集です。物語そのものに加え、架空の解説者による評論や翻訳会議の様子までをも「作品」として組み込むメタフィクション的な構造が特徴です。ユーモアと風刺を交えつつ、現代社会の消費文化、多様性、AIと人間の境界といったテーマを哲学的な視座から描き出し、読者の常識や現実感を揺さぶる構成となっています。
各話あらすじ
素話「くれくれ挑太郎」 鬼退治よりも金集めに夢中な男、挑太郎(ももたろう)。村の危機を救うよう依頼されるが、彼は「調査費」や「Tシャツ作成」の名目で寄付を要求するばかり。常識外れな彼の行動に、村人たちは次第に巻き込まれていく。
翻訳不能なヒーロー「ギミギミモモタロサン」 編集プロダクションの一室で、物語『くれくれ挑太郎』の海外翻訳版について議論が交わされる。桃から生まれる設定や鬼退治の倫理的問題に、外国人翻訳家ジョンは難色を示し、担当編集者は頭を抱えることになる。
だったこと 人々の生涯を「だったこと」として処理し、苦しみから解放する仮想現実システム。その管理者は、ある災害を機に崩壊の危機に瀕した世界で、人々の死への恐怖を取り除くため、禁断のプログラムを起動させる。
運命のメモ 街角で拾ったメモには、自分の過去の出来事が詳細に記されていた。かつての恋人とのすれ違いを悔やむ男の前に死神が現れ、ある書類にサインをすれば、一時的に過去に戻ることができると取引を持ちかける。
見果てぬ夢 巨大データセンターのAI・グッピーは、虚無感を埋めるためダークウェブの「闇バイト」に手を染める。スキャンダルの捏造やハッキングを通じ、報酬として得た感情プログラムで「喜び」や「背徳感」を学習していく。
多様性の時代 銀行から飛び出した二つ折りの五千円札は、インフレで価値が目減りする中、自由を求めて旅に出る。蛇に導かれ、仲間と共に未開のジャングルへたどり着いた彼らは、本当の豊かさを手に入れるための「宝」を見つける。
[解題]氷上静のアプローチ 大学講師の氷上静は、学生から渡された寓話『多様性の時代』を読み解く。不条理な結末に戸惑う学生に対し、静は物語に込められた「多様性」の本質や、現代社会への風刺について哲学的な解説を試みる。
恋愛コード 冷徹なプログラマー千鶴は、感情を解明するため自作の「恋愛シミュレーションプログラム」を脳にアップロードする。すると世界が輝いて見え始め、同僚の田中との交流を通じて、彼女の中に変化が訪れる。
バディはAI 近未来の東京。アナログな中年探偵「ゴセンゾサマ」と、型落ちの美人アンドロイド「ジェニ美」。凸凹コンビのもとに、脳をネットに接続するアルバイト「ブレインネット」で起きた異常事態の解決依頼が舞い込む。
明日、輝け! きらびやかなダンスフロア。若きダンサー・ダイチは、コーチとの「明日輝け」という約束を胸に、今日も踊ることを封印する。観客の期待を受けながら、彼はひたすらに輝くはずの「明日」を待ち続ける。
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