さあ、今日も彼女に罵られに行こう!
平凡な高校生である僕が入部したのは、美少女だが口を開けば罵詈雑言、敬愛する作家はチャールズ・ブコウスキーという、文芸部の黒崎(くろさき)部長が支配する場所だった。提出する原稿は「駄文」「時間の無駄」と切り捨てられ、僕の存在は道端の石ころ以下。しかし、そんな彼女が、なぜか毎日部室で僕を待ち、誰よりも真剣に僕の「駄文」を読んでくれるのだ。これは、そんな毒舌まみれの日常から、万に一つくらいの確率で甘さがこぼれ落ちるかもしれない、そんな期待を観測する物語。

【登場人物紹介】
黒崎 文(くろさき ふみ) 文芸部部長。「凡俗」と呼ぶ主人公を罵倒しつつ、麦茶をウイスキーのように嗜む孤高の美少女。ブコウスキーを愛読し、文章に「魂」を求める文学至上主義者だが、かつては天野光と最強の創作コンビだった過去を持つ。
神崎 一樹(かんざき いつき) 本作の主人公。黒崎に「凡俗」と呼ばれるが、人間を数値や記号で分解・再構築する特異な分析能力を持つ。文章に体温がないと評されるが、天野との共同執筆では「建築家」として物語の論理的骨格を作る役割を担う。
天野 光(あまの ひかり) バスケ部所属の太陽のような少女。感性豊かだが言語化は苦手で、感情を絵や擬音で表現する。黒崎の元相棒であり、一樹との共作では自身の記憶や感情を提供する「素材」としての役割を命じられる。
堂島 巧(どうじま たくみ) 部室の死角に常に存在していた三人目の部員。物語を空間設計図として読み解く「校正機」であり、感情よりも物理法則や構造的整合性を絶対視する。一樹と天野の通訳的な役割も果たす冷静な分析家。
月読 リノ(つくよむ りの) 黒崎の後任として現れた新顧問の国語教師。通称「リノリウム」。ジャージ姿で常にやる気がなく、自身の行動を独自の「単位」システムで管理する変人であり、部員の活動には放任主義を貫く。
【各話別あらすじ】
第1話~第5話:凡俗と太陽の観測
第1話 文学と麦茶とろくでなし 文芸部室を訪れた主人公は、部長の黒崎文が麦茶をウイスキーのように嗜む奇妙な光景を目にする。黒崎は主人公の原稿を一瞥するなり「陳腐な比喩」「他人の言葉のパッチワーク」と酷評し、ブコウスキーの『町でいちばんの美女』を投げつけ、感想文10枚の提出を命じる。罵倒されながらも、主人公は彼女の微かな笑みに惹かれ、翌日も部室へ向かう決意をする。
第2話 11枚目の駄文 主人公はブコウスキーの野卑な世界観に苦戦しながらも、徹夜で感想文を書き上げ提出する。指定枚数を超えた「11枚」の原稿に対し、黒崎は「蛇足」「駄作」と切り捨てるが、最後の1行にある主人公自身の渇望だけは認め、微かな笑みを見せる。主人公は彼女が最後まで読んでくれたことに喜びを感じ、奇妙な師弟関係が継続することになる。
第3話 凡俗の観察眼 黒崎は主人公の文章に「体温がない」と指摘し、その原因が人間観察の不足にあると断じる。新たな課題として「特定の一人を一日観察し、キャラクター・スケッチを作成せよ」と命じられた主人公は、体育館でバスケットボール部の練習に励む少女、天野光に目を留める。黒崎とは対照的な太陽のような彼女を、主人公は観察対象に選ぶ。
第4話 太陽の引力 主人公は天野光をストーカーのように観察しメモを取るが、転がってきたボールをきっかけに彼女に見つかってしまう。しかし天野は主人公を不審がるどころか「文芸部の人」として純粋な尊敬と好意を向ける。黒崎を「知的でカッコイイ」と評する彼女の明るさに圧倒されつつ、主人公は月のような黒崎と太陽のような天野という二つの天体の間で揺れ動く。
第5話 異常者のスケッチ 提出されたレポートを読んだ黒崎は、主人公が天野の笑顔の口角の数ミリのズレや声の周波数から心理的防衛機制を見抜いた記述に驚愕する。主人公は、物語の登場人物を幸せにするために「再構築」する分析癖があることを告白。黒崎はその「気味の悪い観察眼」こそが主人公の隠された才能であると見抜き、その眼で物語を書けと命じる。
第6話~第10話:三人目の部員と不協和音
第6話 死角の住人 主人公は分析能力を活かして小説を書くが、黒崎に「ただの答え合わせ」「魂がない」と批判される。そこへ部室の隅にいた男子生徒、堂島巧が口を挟む。彼は主人公が認識していなかった三人目の部員であり、物語を空間設計図として読み解く「校正機」だった。堂島は主人公の小説に対し、物理法則的に部屋の広さと行動が矛盾していると指摘する。
第7話 三人目の定義 堂島は黒崎の求める「魂」も主人公の「論理」も否定し、「構造的な美しさ」のみを評価基準とする。彼に主人公の小説は「壁にめり込んでいる」と断じられ、主人公は黒崎の文学的視点と堂島の物理的視点の板挟みになる。黒崎は堂島を「最も厄介な読者」と紹介し、文芸部に新たな視点が加わることで、創作のハードルはさらに上がる。
第8話 太陽の侵入 主人公が書いた『コンクリートの涙』を巡り、堂島は物理的整合性を認めるが、黒崎は「涙の理由が安直」と切り捨てる。そこへ天野光が現れ、主人公の原稿を読んで感動し「胸がぎゅーってなった」と絶賛する。黒崎の酷評に対し天野は反論し、さらに文化祭の部誌にこの小説の挿絵を描きたいと提案。静寂な部室に波紋が広がる。
第9話 不協和音の制作会議 黒崎は天野の提案を感情論として却下しようとするが、堂島が「挿絵は読者を42%増やす」という統計的データで援護射撃を行い、天野の参加が認められる。こうして主人公、黒崎、堂島、天野という全く異なる価値観を持つ四人による、文化祭部誌制作会議が幕を開ける。黒崎は不満を漏らしつつも、主人公の作品を推敲し始める。
第10話 3つの正しさ クライマックスの描写について議論が紛糾する。天野は「キラキラした涙」の絵を提案し、黒崎は「爪が食い込む拳」で絶望を表現しろと命じるが、堂島が物理法則(光の屈折や荷物で手が塞がっている点)から両方を否定。板挟みになった主人公は、涙も流さず拳も握らず、「買い物袋から落ちた割れた卵」を描写することで絶望を表現する案を出す。
第11話~第15話:割れた卵とフィールドワーク
第11話 名もなき僕らのプロトコル 「割れた卵」というアイデアは、直接的な感情描写を避けて読者に委ねる手法として、黒崎と堂島から一定の評価を得る。黒崎は主人公がこれまで名前を名乗らず、自身を作中から消そうとしていた「臆病さ」を指摘。主人公は初めて「神崎一樹」と名乗り、黒崎は学園の名が「私立鳥瞰学園」であることを宣言し、本格的な活動が始まる。
第12話 割れた卵をめぐる観測 黒崎は一樹にその場で「絶望的な卵」の描写を命じるが、想像だけでは書けない。天野も絵が描けず、堂島からは影の角度の矛盾を指摘される。行き詰まった天野は「実際に卵を落としてみればいい」と提案。黒崎は呆れつつも、思考の便秘解消のためとして、部員全員でコンビニへ卵を買いに行き、実験を行う「フィールドワーク」へ向かう。
第13話 フィールドワークという名の奇行 一行はコンビニへ。黒崎は「文学的な卵」を、堂島は「質量のあるLサイズ」を要求し議論になる。公園の脇道で天野が卵を落とすと、想像よりも呆気なく、生々しい「命の跡」がアスファルトに広がった。四人はその光景を静かに見つめ、一樹は理屈ではなく目の前の現実を書き留めるため、ノートを開く。
第14話 芸術の残骸 一樹は「アスファルトの上に、命が一つ、落ちていた」という一行を記し、三者三様の肯定を得る。その後、現実的な問題として卵の掃除をすることになり、天野が買ってきた水と紙ナプキンで片付ける。帰り道、天野からジュースを渡された黒崎は、素直になれないながらも受け取り、一樹はその夜、体験を元に物語を書き始める。
第15話 18パーセントの奇跡 翌日、一樹が書き上げた原稿は、黒崎に「及第点」と評価され、天野の心も動かす。堂島は、卵黄が割れずに残る確率が18%しかない点を利用した描写を「計算された異常性」として評価。天野は一樹の文に合わせて、主人公ではなく「足元と卵」だけを描いたスケッチを完成させる。ついに文章と絵が噛み合い、一つの作品として形になり始める。
第16話~第20話:幸福の分析と拒絶
第16話 幸福の設計図 クライマックスは完成したが、黒崎は冒頭の「幸福な日常」のシーンが空虚であると指摘。絶望を際立たせるには「体温のある幸福」が必要だとし、一樹に新たな課題を与える。それは、天野光という「幸福のサンプル」を徹底的に観察・分析し、レポートとして提出することだった。一樹の新たな地獄のような観察生活が始まる。
第17話 幸福の観測、あるいは地獄の始まり 一樹は教室で天野を監視し、笑顔の筋肉や会話の間をデータ化する苦行を続ける。天野に怪しまれるが、彼女の鈍感さと善意に救われる。放課後、バスケの練習でミスをした天野が、仲間の励ましで即座に笑顔に戻る瞬間を目撃。一樹は「幸福とは状態ではなく、失敗からの回復プロセスである」という仮説を立てる。
第18話 幸福の解剖結果 一樹は「幸福=回復プロセス」という仮説レポートを提出。黒崎はその分析を認め、それを元に小説を書くよう命じる。堂島もシステム的な観点から興味を示すが、天野だけは自分が「被験体」として分析されていたことを知り、戸惑いを隠せない。しかし一樹は、天野をモデルにした物語の執筆に取り掛かる。
第19話 幸福の描き方を編集 一樹は天野をモデルにした小説を提出するが、黒崎は「ただの観察記録」と酷評。天野も「無理して笑った」という心理描写に対し、「私は本当に嬉しくて笑っただけ」と否定し、「勝手に決めつけられるのは嫌い」と明確な拒絶を示す。一樹の分析は失敗し、仲間を傷つけてしまったことで部室の空気は最悪になる。
第20話 エラーとリセット 堂島が「分析レイヤーと本人の経験レイヤーの不一致」によるエラーだと状況を整理する。黒崎は一樹の失敗を宣告し、代わりに天野自身に「本物の幸福」を書くよう命じる。「嫌い」と否定した以上、正しいものを提示する義務があるという理屈で、書いたことのない天野にペンを握らせる。一樹は傍観者となり、事態は混迷を極める。
第21話~第25話:共犯者たちの翻訳作業
第21話 太陽の筆跡 天野は執筆を試みるが、感情を言葉にできず手が止まる。堂島が介入し、「感情ではなく、五感で感じた物理的現象をリストアップしろ」と助言。天野は「床の匂い」「ボールの音」などを書き出す。黒崎はその苦しむ様子を静観し、表現することの困難さを二人に知らしめようとする。
第22話 共犯者の設計図 天野のメモは「監視カメラの記録」に過ぎず、物語になっていないと黒崎に断じられる。堂島も座標の欠落を指摘。黒崎は、一樹の構成力と天野の感受性を組み合わせる「共同執筆」を命じる。天野を「素材」、一樹を「建築家」とし、互いの欠陥を補完させるこの命令により、二人は歪な共犯関係を結ぶことになる。
第23話 共犯者のための仕様書 共同作業が始まるが、論理的な一樹と感覚的な天野の言語は通じ合わない。堂島が仲介し、天野は「絵」を描き、一樹がそれを「文章」に翻訳するという新たなプロトコルを提案する。天野が描いた「パフェと二人」の拙い絵を元に、一樹が要素を分析して文章化する作業が始まり、ようやく意思疎通の糸口が見え始める。
第24話 雪だるまとパフェの解剖学 一樹の翻訳した文章は正確だが「幸福感」が足りないと天野は不満を漏らす。一樹は文章に対し天野に感情的な注釈(もっと暖かく、ドキドキして等)を入れさせ、それを元に修正する作業を繰り返す。効率は悪いが、徐々に体温のある文章が生まれ始める。黒崎も「窓のないビル」からの脱却を認め、堂島も情報の解像度向上を評価する。
第25話 翻訳者のジレンマ 出来上がった原稿に対し、黒崎は「ありふれた匿名の幸福」だと指摘し、天野個人の「固有の記憶」を出すよう要求する。天野は躊躇するが、一樹が「些細なことでもいい」と助け舟を出し、イヤホンを片方ずつ共有する思い出を提案する。天野はその情景を描き始め、一樹は彼女の心の奥底にある記憶を傷つけないよう翻訳する「考古学者」の役割を担う。
第26話~第30話:過去の亡霊と第一部完
第26話 影の輪郭、心の温度 イヤホンの共有シーンの執筆が進む。天野のメモにある「恥ずかしい」「緊張」といった感情を一樹が縫合し、密度のある文章が完成する。黒崎は一樹を「不器用な外科医」と評し、堂島は情報の増幅を評価する。完成した文章を読み上げると、そこには以前にはなかった熱が宿っており、天野は一樹に対して初めて信頼の眼差しを向ける。
第27話:屋上の翻訳者 一樹と天野は屋上へ行き、夕暮れの教室の描写について語り合う。二人の感性と論理が融合し、美しい表現が生まれる。天野は一樹の文章を「綺麗だけどガラスケースに入ってる」と評し、「一樹自身はどう感じるか」を問う。一樹は分析できない感情に動揺し、天野に顔が赤いことを指摘され、自身の変化を自覚し始める。
第28話:女王陛下の不協和音 部室に戻った二人は良好な創作状態にあったが、黒崎は不機嫌さを露わにする。彼女は「家の事情」で部に関われなくなったと唐突に告げ、二人の馴れ合いに反吐が出ると吐き捨てる。一樹たちは理不尽な怒りに困惑するが、黒崎はすでに後任の顧問を呼び出していた。彼女の態度の裏には、複雑な感情が見え隠れしていた。
第29話:怠惰の魔女と最後の言葉 新顧問として現れたのは、やる気のない女性教師「月読リノ(通称リノリウム)」だった。彼女は事務的な引継ぎだけ済ませると、すぐに去ろうとする。黒崎も荷物をまとめ、最後に天野に向かって「あとは任せたぞ」と言い残して部室を去る。絶対的な支配者を失い、残された部員たちは呆然とする。
第30話:共犯者たちのプレリュード なぜ黒崎が一樹ではなく天野に後を託したのか。堂島は、かつて黒崎と天野が「最強の創作コンビ」だった過去を明かす。黒崎が書き、天野が世界を描いていたが、ある傑作を作る前に決裂していたのだ。天野は「地下文芸部」という言葉を呟き涙を流す。過去の因縁と巨大な謎を残し、一樹たちの新たな戦いが始まるところで第一部は幕を下ろす。
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