本作は、月面での農業に挑む女性チームの活躍を描いた「ドタバタSFコメディ」と、そのモデルとなった「本物の宇宙飛行士たちによる辛辣な読書会」が交互に展開される、ユニークな構成の長編小説です。
劇中劇:能天気な「月面レタス隊」の冒険
物語のメインとなるのは、日本人女性だけで構成された「月面レタス隊」の奮闘記です。植物学者のモヤシや、エンジニアのマッド、そして糠漬けを愛するアシスタントAIヌカヅケといった個性豊かな(そしてどこか抜けている)メンバーが、月面基地「満月亭」でレタス栽培に挑みます。 ここでは、「人間アンテナ」で通信を回復させたり、謎の光るレタス「ツキノコちゃん」が誕生したりと、科学考証を無視したご都合主義的でコミカルな展開が繰り広げられます。
外枠の物語:プロフェッショナルによる「現実」のツッコミ
各章の終わりには、この小説のモデルとなった「セレーネ・ミッション」の元クルーたち(コマンダーのエレノアやエンジニアのマティルダら)が登場します。彼女たちは、自分たちをモデルにしたこの小説を読みながら、「月面でジャンプするなど自殺行為だ」「そんな短時間で治療薬ができるわけがない」と、プロの視点から物語の甘さを冷徹に、しかしどこか懐かしそうに批評します。
「夢」と「現実」の交差点
本作の読みどころは、この「ふざけたフィクション」と「シビアな現実(という設定のフィクション)」の落差にあります。 劇中劇の中で、太陽フレアや未知の病原体といった危機がレタス隊を襲い、彼女たちは「愛」や「絆」でそれを乗り越えようとします。一方で、それを読む元クルーたちは、「現実の宇宙では、愛ではなく冷徹な計算と規律だけが命を救う」と語ります。
しかし、物語が進むにつれ、荒唐無稽な「嘘」の中に込められた、人類が宇宙を目指す根源的な「夢」の力が浮き彫りになっていきます。果たして、フィクションの中の「ツキノコちゃん」は、現実の厳しさを知るプロフェッショナルたちの心に何を残すのか。そして、月面レタス隊の無謀な栽培実験は、どのような結末を迎えるのか。
「正しい現実」と「楽しい嘘」、二つの視点から宇宙開発への愛を描き出した、メタフィクションSFの意欲作です。
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