移動図書館日記(68)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

某月某日

コンテナの留め具を確認し、撤収作業の仕上げにかかっていた時だった。西日の射す通学路の向こうから、ランドセルが揺れる音が近づいてきた。

「おしゃべり、みちくさ、ものがたり?」

たどたどしく読み上げる男の子の声。手を止めて振り返る。ずっと離れたところをうろうろ蛇行するように歩いてくる3人組。ロマコメ号のボディに描かれた、決して大きくはないロゴタイプを、あんなところから読めるんだ。

「ねえ、みちくさって、なに?」

女の子の声が、風に乗って鼓膜にしっかり届く。

道草――目的地へ向かう途中、他のことに時間を費やすこと。非効率。以前の私なら、その言葉を「いけないこと」として処理していただろう。最短距離で目的地に着くことが、正しい運行計画だと信じていたから。

A.A.ミルンの『クマのプーさん』を思い出す。クリストファー・ロビンが一番好きなこと。「何もしないこと」。そこへ行く途中の、名付けようのない時間こそが、あのお話のすべてだった。

「みちくさ」とは、無駄な時間のことではない。「物語」が生まれるための、もっとも肥沃な土壌のこと。子どもたちの声は、笑い合いながら遠ざかっていく。

私は手にしていた雑巾で、ボディに書かれた「みちくさ」の文字の上を、そっと拭った。跳ね上げた泥の小さなしみが、「く」の文字の払いの部分にこびりついている。きれいに拭き取る手が一瞬止まる。この泥汚れは、ロマコメ号が今日一日、村の中をあちこち走り回ってしてきた、愛すべき「みちくさ」の証拠みたいだ。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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