これは、日記という名を借りた私の記憶。
――「主任 菜箸千夏」。
主任という新しいラベルが、まだ糊の乾ききっていない付箋のように、私の胸元で少しだけ浮いている。一人で背負っていた書架の重みを、今はチームという丈夫な箱に分けて収めている。
二階のガラス張りの部屋では、高島雅也新館長が、村の復興という分厚い資料の束と格闘している。以前よりも眉間のしわが深くなった気がするのは、きっとこの村の明日を、誰よりも正しく綴じようとしているからだろう。その横で、真木まき新副館長が、消しゴムのカスをさっと払うような軽やかさで、私たちの不安を笑顔に変えてくれる。
カウンターで本の背を愛おしそうに撫でているのは、司書の鈴木美桜さんだ。彼女の指先は、もう泥を払うためのものではなく、誰かの明日へのページをめくるためのものになっている。
新しく加わった仲間たちも、それぞれの棚に収まるべき一冊のように個性的だ。坂上節子さん(地域連携)の淹れるお茶は、煮詰まった会議の空気を水に溶かしてくれるし、北条蓮くん(児童担当)の元気な靴音は、本館の静けさに新しい書き込みを加えていく。そして、芳野結衣さん(アーカイブ)が静かに資料をつなぎ合わせる音。彼女が戻ってきてくれたことで、私のバラバラだった情報の束も、ようやく一冊の形になろうとしている。
毎朝、車のキーを回すドライバーのHさんとUさんの、油の染みた大きな手。彼らがハンドルを通して伝えてくれる地面の震えは、私にとって「物語の始まり」を告げる合図だ。
移動図書館は、いま二台で村を回っている。翼を広げるようにハッチを開く私の相棒・ロマコメ号と、まだ名前のない大型の名無し君(ごめん)だ。ロマコメ号が外の風を吸い込む広場なら、靴のまま中に入れる名無し君は、誰にも邪魔されない小さな隠れ家のよう。宮沢賢治の『注文の多い料理店』に出てくる扉のように、入るたびに違う世界へ連れて行ってくれる予感がする。この白い車体に、どんな名前を書き入れようか。
本館という大きくてしっかりはった根と、移動図書館という軽やかな羽。 私たちはようやく、ばらばらの図書館員としてではなく、一つのチームとして、村の人たちの沈黙に寄り添えるようになったのかもしれない。
これは、日記という名を借りた私の記憶。
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