移動図書館日記(87)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

――「主任 菜箸千夏」。

主任という新しいラベルが、まだ糊の乾ききっていない付箋のように、私の胸元で少しだけ浮いている。一人で背負っていた書架の重みを、今はチームという丈夫な箱に分けて収めている。

二階のガラス張りの部屋では、高島雅也新館長が、村の復興という分厚い資料の束と格闘している。以前よりも眉間のしわが深くなった気がするのは、きっとこの村の明日を、誰よりも正しく綴じようとしているからだろう。その横で、真木まき新副館長が、消しゴムのカスをさっと払うような軽やかさで、私たちの不安を笑顔に変えてくれる。

カウンターで本の背を愛おしそうに撫でているのは、司書の鈴木美桜さんだ。彼女の指先は、もう泥を払うためのものではなく、誰かの明日へのページをめくるためのものになっている。

新しく加わった仲間たちも、それぞれの棚に収まるべき一冊のように個性的だ。坂上節子さん(地域連携)の淹れるお茶は、煮詰まった会議の空気を水に溶かしてくれるし、北条蓮くん(児童担当)の元気な靴音は、本館の静けさに新しい書き込みを加えていく。そして、芳野結衣さん(アーカイブ)が静かに資料をつなぎ合わせる音。彼女が戻ってきてくれたことで、私のバラバラだった情報の束も、ようやく一冊の形になろうとしている。

毎朝、車のキーを回すドライバーのHさんとUさんの、油の染みた大きな手。彼らがハンドルを通して伝えてくれる地面の震えは、私にとって「物語の始まり」を告げる合図だ。

移動図書館は、いま二台で村を回っている。翼を広げるようにハッチを開く私の相棒・ロマコメ号と、まだ名前のない大型の名無し君(ごめん)だ。ロマコメ号が外の風を吸い込む広場なら、靴のまま中に入れる名無し君は、誰にも邪魔されない小さな隠れ家のよう。宮沢賢治の『注文の多い料理店』に出てくる扉のように、入るたびに違う世界へ連れて行ってくれる予感がする。この白い車体に、どんな名前を書き入れようか。

本館という大きくてしっかりはった根と、移動図書館という軽やかな羽。 私たちはようやく、ばらばらの図書館員としてではなく、一つのチームとして、村の人たちの沈黙に寄り添えるようになったのかもしれない。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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