これは、日記という名を借りた私の記憶。
ドライバーのHさんがロマコメ号のエンジンを切る。集会所の奥からテレビの音が低く漏れて聞こえてくる。通い慣れた場所の、いつもの昼下がりの音だ。
運転席を降りた私の足元に、冷たい風といっしょに、小さな影が滑り込んできた。
「図書館のおねえさん、見て」
その子は言うなり、地面に両手をついた。反対向きにだ。勢いよく体が反り、捲れ上がったTシャツの下から、お腹が無防備に空へ突き出される。ブリッジだ。久しぶりに見た。その子の視界は逆転して、私の靴の先を見つめている。小さな手のひらは、砂の混じったアスファルトを必死に押し返していた。
すぐ横で、お父さんがポケットに手を入れたまま、子どもの不格好なお腹を見つめている。膝の抜けた作業ズボンの裾が、風もないのにわずかに揺れた気がした。
「ここの仮設は、この子と同年代の遊び相手がいないんだ」
お父さんは、地面に落ちた自分の影に話しかけるように言った。私は何も答えず、手にしたバインダーのクリップを指先でなぞった。
「す、すごいですね」
子どものブリッジにかけた言葉がかすれたせいで、何がすごいのか、遊び相手がいないことがすごいのかあいまいなまま、気まずい空気が集会所の前にしばらく漂った。
「可哀想に」
お父さんがポツリ。その最後の一片も、どこにも分類できないまま、集会所の乾いた地面の上に放り出された。
子供がブリッジを解き、勢いよく立ち上がった。服についた砂を払うこともせず、私に向かって手のひらを見せる。アスファルトの形に、柔らかそうな手のひらに凹凸ができていた。その子は私に満足そうな笑顔を見せた。
「すごいね」
さっきよりは少し大きな声が出せた。お父さんは、空っぽのブランコの方へとゆっくり視線を動かした。そこには、傾きかけた陽光が、ただ平坦に路面を照らしているだけだった。
これは、日記という名を借りた私の記憶。
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