移動図書館日記(95)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

春を待つ風にしては、今日の外気は少し鋭すぎた。こんな日に限って、仮設住宅の集会所が別の行事でふさがっていて、ロマコメ号の受付は集会所の前に設けることになった。

もともと、外に設営するルールなのだけれど、ついていないなと正直に思ってしまうほどの風の冷たさだった。

それでも、簡易的なキャンプテーブルを広げ、受付用の用具を並べていると、見慣れた顔ぶれが集まり始める。

「寒いこと、寒いこと」

「千夏ちゃん、厚着してきた?」

そういうおかあさんたちは、私よりずっと薄着だ。反対に心配する私に、おかあさんたちの笑いの輪が広がる。

「私ら、すぐそこに住んでんだから」

「こうしていれば、少しは温かいでしょう」

誰かが私の背中をちょっと手荒にさすり、また誰かが肩を寄せてくる。おしくらまんじゅうのように密着した人肌の熱が、私の強張った身体と気持ちをゆっくりと解いてくれる。

小分けされたチョコレート、小さな袋に入ったおせんべい。そして、あたたかそうな作りたての焼き菓子。

寒い中がんばったご褒美? 利用者さんからの差し入れがいつもより多かったような気がする。なかには、土のついた野菜まで。

ジョージ・マクドナルドの『北風のうしろの国』を思い出す。厳しい冬を越えるための言葉は、辞書には載っていない。それは、誰かの差し出した手のひらや、寄せ合う肩の熱さの中に、そっと綴じられているものなのだと思う。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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