移動図書館日記(97)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

ひとつめの仮設団地。

「おはようございます」

私たちに支援してくださっている財団の女性だった。視察があることは高島館長から聞いていた。

微笑んでいるけれど、目力というのだろうか、目の輝きが強い。これから険しい山にでも登るような、真新しいアウトドアウェアに身を包んでいる。舗装の剥げたこの場所を歩くために、彼女なりに考えて選んでくれた格好なのだろう。

「面白いですね」

視察の合間、彼女がそう口にした。少し意外で、けれどすとんと胸に落ちた。中心が一つではなく、あちこちに小さな輪が広がっている。ネットのよう? 誰か一人のための場所ではなく、みんながのんびりと、ただそこにいていい場所。そんな私たちの試みを、彼女は「面白い」と肯定してくれた。

彼女は走り回る子どもたちを、ただ静かに、柔らかな眼差しで見守っていた。その視線に、余計な言葉は混じっていない。ただ、そこにある幼い命を慈しむような、静かな光だった。

「体に気をつけてね」

別れ際、彼女が私の手をぎゅっと握った。握られた手の熱が、じわりと胸に届いた。私たちが守ろうとしているこの「場」だけでなく、そこを訪れ続ける「私」という人間の輪郭まで見ていてくれたのだと、その時初めて気づいた。

分類棚に収まりきらない感情が溢れ出しそうになる。同時に、「偉い人を迎える」と、どこか強張っていた肩の力がゆっくりと抜けていくのがわかった。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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