【登場人物】
リリカ:ここあん高校の生徒。シニカルな「冷たい最強」。安部公房を愛読。
太陽:リリカの弟。姉の「知性・論理・皮肉」が一切通用しない天敵。
【場所】
リリカの自宅のリビング。リリカはソファで静かに文庫本(安部公房『壁』)を読んでいる。
(リリカが読書に集中していると、ドタドタドタ!と派手な足音と共に、弟の太陽が虫取り網と空の虫カゴを持って駆け込んでくる)
太陽:姉ちゃん! 大変だ! 捕まえた!
リリカ:(本から目を上げず、ため息)……何を。まさか、また「ジャングルジムのかさぶた」とか言って、剥げた錆を拾ってきたんじゃないでしょうね。
太陽:違う! 今日はもっとすごいの! 「孤独」!
リリカ:(ようやく顔を上げ、冷ややかに)「孤独」。それはプラトンの言うイデア界の話? それとも、あなたのその空っぽの虫カゴが象徴する、あなたの脳内の「空虚」のことかしら。
太陽:(興奮して虫カゴをリリカの目の前に突き出す)これ! 「孤独」! さっき公園のシーソーのところに、一人でいたんだよ!
リリカ:(カゴの中を無表情で一瞥する。当然、中は空っぽ)……なるほど。「孤独」は可視化できない。見事なメタファーね。安部公房も驚くわ。
太陽:だろ⁉ なんかね、紫色っぽくて、フワフワしてたんだ! 俺が網をかぶせたら「キュ!」って言った!
リリカ:「キュ!」。それは、あなたが履いているスニーカーのゴムが地面に擦れる音、あるいは、あなたの期待が生み出した幻聴よ。
太陽:幻聴じゃないよ! こいつが言ったの! ねえ、どうしよう、これ。エサとかあげるのかな? 「孤独」って、何食べるの?
リリカ:(こめかみを押さえる)……知らないわよ。強いて言うなら、他人の「時間」とか「同情」を食べて増殖するんじゃないかしら。もういいでしょ。その「不条理の塊」を私の視界から消して。
太陽:かわいそうじゃん! せっかく捕まえたのに! ……あ、そっか!
(太陽、何かを閃き、パチンと虫カゴのフタを開ける)
リリカ:……何をする気?
太陽:姉ちゃんの「孤独」も仲間に入れてあげる! ほら、出てこいよー! 友達だぞー!
(太陽、虫カゴをリリカに向かってバサバサと振り回す)
リリカ:(手で払いながら、本気で嫌そうな顔)やめなさい! 実存的な埃が舞うじゃない!
太陽:あ! 今、姉ちゃんの肩から出てきた! なんかグレーで、ギザギザしてるやつ!
リリカ:(ソファに深くもたれかかり、文庫本で顔を覆う)もういいわ。あなたと話していると、私の「知性」というOSが飛ぶから……。
太陽:飛ぶ⁉ なにそれ、昆虫⁉ かっこいい! どこにいんの⁉
リリカ:……(顔を覆ったまま、呻くように)あなたの手の届かない、遠いところよ……。
(太陽は姉の言う虫を探すため、目を輝かせて再びリビングを駆け回ろうとする。リリカはソファから動けない)
(幕)
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