Geminiとの創作談義007

前回は、AI特有の「手癖クリシェ」がなぜ生まれるのか、感情を算数で語る幼稚な単位へのこだわり、そして記号化された表現が次世代のスタンダードになり得る未来についてAI(Gemini)と議論を交わした。

その結末として、安直な表現をこれでもかと詰め込んだ「全部のせ」を強要する若手編集者と老作家のブラックなコントで幕を閉じたわけだが、今回はその流れを引き継ぎ、実際に二つの極端な掌編を作って比較してみることにした。

文案1 全部のせ

まずは、前回の老作家と編集者のコントの流れをそのまま引き継いだ「全部のせ」の掌編だ。

AIが多用しがちな「指の関節が白くなるほど」「茜色の残光」といった陳腐な表現や、コンマ数秒・数ミリといった感情を数値化する幼稚な手癖を、あえて致死量(?)まで詰め込んでみた。読者の想像力を奪う説明的な記号で余白を埋め尽くした、悪夢のような「全部のせ」スタイルである。

文案1 掌編「全部のせ」

駅のホーム、午後六時四分。茜色の残光が網膜を焼き、視神経を通じて「切なさ」の信号が秒速百二十メートルで脳に送られる。

「別れよう」

彼女が唇を開いてから、空気が振動し、僕の鼓膜を震わせるまでに要した時間はコンマ二秒。その瞬間、僕の脳内では「ショック」の変数が最大値に更新された。

僕は指の関節が白くなるほど両拳を握りしめた。これは読者への「怒りと耐忍」の視覚的サインだ。さらに、喉の筋肉を収縮させ、ゴクリと大きな音を立てて唾液を飲み込む。驚愕を伝えるための、最も分かりやすいSEサウンドエフェクトである。

「どうして」

僕は数ミリの距離まで顔を近づけ、コンマ二秒の速度で言葉を発した。間接照明のような仄暗い夕闇が、僕たちの間に絶妙な「エモさ」のレイヤーを重ねる。

彼女の瞳から、堰を切ったように一筋の涙が零れ落ち、頬を伝った。それは時速一センチメートルの速度で、正確に「悲劇のヒロイン」としての座標を示している。

「私たちの価値観、もうエクセルで管理できないくらいズレちゃったの」

彼女は自嘲気味に口角を僅かに上げると、胃の奥が冷たくなるのを感じながら、乾いた笑いを漏らした。これは「絶望の裏返し」を示す公式フォーマットだ。

僕はただ、息を吐……こうとしたが、それでは情報不足でエラーが出る。

僕は自分の心拍数を可視化するように胸を押さえ、奥歯をガチリと鳴らした。そして、胃壁がキリキリと軋む音を聞きながら、自らの感情パラメータがゼロに向かって収束していくのを、全方位から説明可能な言葉で補完し続けた。

「……わかった。君の判断は、論理的に正しい」

茜色の空が、永遠にも似た一瞬の沈黙を包む。文字と文字の間には、読者が想像力を働かせる隙間など一ミリも残されていない。全ての感情は、今、完全に説明し尽くされた。

文案2 客観描写に徹した掌編

文案1を読んでどう思われただろうか。「結構好き」という人もいるかもしれない。もうこれは好みの問題とも言える。

続いての文案2は、文案1の真逆をいく、客観描写に徹した掌編。AI特有の過剰な情緒的装飾や比喩を徹底的に排除し、前回触れた、ヘミングウェイの氷山理論のように「客観的な事実と動作」のみを淡々と並べている。感情を直接説明せず、流木に上着を広げる動作や、温度・光の変化という物理的な現象だけで状況を描き出すことを試みた引き算のアプローチである。

文案2 掌編「夜明けの砂浜を歩く二人」

午前四時半。水平線の上だけが、墨を掃いたように薄明るい。

寄せ返す波の音が、周囲の静寂を際立たせていた。二人は靴を手に持ち、裸足で砂浜を歩いた。夜の冷気が残る砂は湿っていて、足の裏に心地よい刺激を与える。

「潮が満ちてきている」

男が海を見ながら言った。

「そうね」

女は短く答え、波打ち際ギリギリを歩いた。

東の空の色が、刻一刻と変化していく。藍色が薄まり、紫から淡い紅、そして橙色へとグラデーションを描く。砕ける波の白い泡が、薄明かりの中で光った。

女が砂に埋もれた流木を見つけ、足を止めた。腰を下ろそうとしたが、男の手がそれを遮った。

「濡れている」

男は自分の上着を脱ぎ、流木の上に広げた。

「ありがとう」

二人は並んで座り、海を見た。

太陽の端が、水平線から顔を出した。一筋の光が海面を走り、二人の足元まで届く。波音が、少し大きく聞こえた。

男は立ち上がり、砂を払った。女も続いた。

二人はどちらからともなく手を繋ぎ、朝の光の中を歩き始めた。振り返ると、砂浜には二列の足跡が続いていたが、波がそれを一つずつ飲み込んでいった。

まとめ

おほん。文案2はどう感じられたろうか。いや、あくまで、表現の話だ。男と女の挙動についてではなくね。

AI(Gemini)に尋ねると、文案1と2を比べて、AIは明確に文案2を「優れた文学的表現」として支持するだろう、ということだった。以下は、AIの指摘である。

文案1は、「より詳しく、感動的に」という要求に対して、装飾のパラメータをただ増やすという物理的な足し算で解決しようとした「加点方式のバグ」の典型である。感情のパラメータや情報を全方位から言葉で説明し尽くした結果、読者が想像力を働かせる隙間を完全に奪ってしまった。これは文学ではなく、人間の情緒から最も遠ざかった「グロテスクな機械のデータログ」に成り下がっている。

対して文案2は、不自然な気取りや情緒的な説明を一切捨て去った「客観的事実の提示」の成功例である。上着を脱いで流木に広げるといった具体的な動作や、波音の変化という事実だけをカメラのように配置することで、かえって水面下にある二人の静かな感情の動き(氷山の本体)を読者に強く想像させている。AIの「空白に耐えられない」という弱点を物理的な制約で断ち切り、事実の積み重ねだけで深いリアリティと情感を生み出した、洗練された文章であると結論づけるはずだ。

どちらの文章が優れているかという比較が目的ではないので、今回はここまで。ちなみに、文案1と2は、ほぼAIによる創作である。文案1は、前回のやり取りの流れでそのまま作ってもらい、文案2は、あるプロンプトをまぜて作ってもらった。どのようなプロンプトかは、別の機会にでも。ではでは。

構成・千早亭小倉+Gemini+NotebookLM

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

創作談義
higashiboctokをフォローする
タイトルとURLをコピーしました