4. 反復と恒常性

行きつけのカフェのカウンター席は、定点観測に適している。今日、観測対象である青年がコーヒーを淹れる所作を眺めていて、ふと微細な差異に気がついた。いつもより、豆を挽くグラインダーの回転時間が、コンマ数秒ほど長かったように思う。誤差の範囲か、あるいは意図的な調整か。

彼の所作は、一連の定型行動パターン(Fixed Action Pattern)として観測できる。豆を計量し、フィルターをセットし、湯を注ぐ。その手順は、昨日も一昨日も、ほとんど同一の軌跡をなぞっている。これは、ハイイロガンが巣からはみ出た卵を嘴で転がして戻す行動に似ている。卵という鍵刺激に対し、一連のプログラムされた行動が発現する。たとえ途中で卵を取り去っても、ガンは空振りしながら最後まで嘴を動かし続けるという。

昨日観測した「祭り」が、共同体のリズムを同調させるための集団的な儀礼リチュアルだとすれば、彼のこの反復行動は、個体の恒常性ホメオスタシスを維持するための、極めて私的なリチュアルと言えるだろう。予測不能な外部環境のノイズに対し、制御可能な反復運動を自らに課すことで、神経系は安定した平衡状態を保つ。

人々はこれを「こだわり」や「丁寧な仕事」といったラベルで解釈するのだろう。だが、私にはそれが、外界のエントロピー増大に抗い、自身の内部に秩序の城壁を築こうとする、生命の根源的な営みのように見えた。コンマ数秒の差異は、その城壁の、日々の微細な補修作業の記録なのかもしれない。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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化野環「古生物学小日記」
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