町の広場の真ん中に、そのからくり時計は立っていた。今も、昔も、まったく同じ場所に。
その時計は、毎日正午に開かれる小さな舞踏会の主催者だった。時計からワルツが流れ出すや、広場そのものが陽光の降り注ぐ舞踏室に変わり、誰もがその優雅な音色に引き寄せられ、見えないパートナーと踊るように、その周りをくるくると巡ったものだ。
しかし、舞踏会は終わった。
今では、てんでんばらばらの時間に、鉄の咳のような音を立てるだけ。だから子供たちは、その時計に向かって石を投げた。最初に投げたのが誰だったか。もう誰も覚えていない。みんなが投げるから、自分も投げる。カツンコツン、カツンコツン、小石がぶつかる音といっしょに、それは、この町の風景になった。
ひとりの少女だけが、その風景の外にいた。彼女は石を拾わない。その小さな手の中には、川辺で摘んだ青い忘れな草が、一輪だけ握られていた。彼女だけが、まだ覚えていたのだ。昔、祖父の肩車の上で聞いた、あの優しいワルツを。
少女は、カツンコツンと鳴り響く石の雨の中を、まっすぐに歩いていった。そして、時計の石の台座にある、ひび割れた隙間に、その小さな青い花を、そっと差し込んだ。
何の音もしなかった。あまりにも静かな、たったひとつの行いだった。
その、瞬間。
まるで最後の息を吐き出すように、からくり時計が、軋みながら動き出した。そして――奏でたのだ。たった一度だけ。昔とまったく同じ、あの甘く懐かしいワルツを。
メロディが止まると、時計は完全に沈黙した。まるで、少女の花に「ありがとう」とだけ告げて、永遠の眠りについたかのように。
石を投げていた子供たちは、あっけにとられて立ち尽くしていた。やがて、遠くから夕暮れのチャイムが鳴ると、気まずそうに一人、また一人と、家へと帰っていった。
広場には、少女と、完全に音をなくした時計だけが残された。
彼女は、たったひとりで、あの美しい音楽を聞いた。でも、明日からもう、あの子たちと同じ顔をして笑うことはできないだろう。
美しい奇跡のあとには、いつだって、ほんの少しの孤独が、夕暮れの影のように寄り添ってくるものなのだから。
(了)
作・千早亭小倉
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