湾曲の正当性
登場人物:中野あやね、中野楓子
中野あやね(65歳・小春の母)は、まな板の上で極端に曲がった胡瓜の端を、親指の腹でなぞっていた 。
「ねえ、この湾曲には、植物なりの正当な理由があると思う?」
孫の楓子(19歳・大学生)は、換気扇の回る周期的な風圧を頬に受けながら、静かに頷いた 。
「重力へのささやかな抵抗だと思う。地這いキュウリなら土壌の硬さに対する妥協案? 真っ直ぐであることを諦めた瞬間に、この瑞々しさが確定したんじゃないかな」
あやねは、使い込まれた包丁の刃先で、胡瓜の突起を一つだけ削り取った。
「妥協を形にすると、噛み応えに複雑な迷いが出るわ。それは、少しだけ贅沢なことね」
「迷いは味の奥行きだよ。効率を無視した不均等な歯触りこそ、今の私には必要」
楓子は、あやねが剥いた皮の断片を人差し指でなぞった。水分が指先に移り、微かな湿り気が残る。
二人は、サラダボウルの中で交差する不揃いな緑の線を見つめ、無言でドレッシングの瓶を上下に揺らした。

中野あやねの名言

中野あやね:いい出汁はね、具材が諦めた時に出るものよ。

中野あやね:正論より、少し伸びた麺の方が人を救うのよ。
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