箱庭コント311「垂直の訪問者」

登場人物】
さやかっくす:「ペンタ」の自称管理人。
まんのすけ:ここあん村の他称「元祖ニート」

【場面設定】午後二時。筋金入りの引きこもり、まんのすけが自室で「天井のシミの数を数える」という崇高な業務に励んでいる。

(2階の窓ガラスが、コンと鳴る。鳥ではない。ネオン色のスニーカーが浮いている。まんのすけが視線を上げると、窓枠に逆さ吊りで張り付く少女と目が合う)

さやかっくす:ちわっす。ここ、外壁のグリップ最高っすね。

まんのすけ:なんだ、俺にもついにお迎えが来たのか。

さやかっくす:さやかっくすです。

まんのすけ:今は、みんなそんな名前で迎えに来るのか?

さやかっくす:送迎バスもやってるけど、メインは、ペンタの管理人ですね。

(重力に喧嘩を売るような体勢で、少女はニカっと笑う。まんのすけは布団を頭まで被り直そうとする)

まんのすけ:玄関へ回ってくれ。わしは70年、水平移動ひとすじだからな。

さやかっくす:水平もひとすじも、退屈じゃないですか? 世界はこんなに凹凸があるのに。

(さやかっくすは、窓ガラス越しにまんのすけの深く刻まれた眉間のシワを指差した)

さやかっくす:お爺ちゃん、いい顔してる。そのシワ、指の引っ掛かりが良さそう。

まんのすけ:わしの人生の苦悩を、ボルダリングの壁として評価するな。

さやかっくす:知ってるんだ、ボルダリング。平行移動ひとすじでも。ほんと、攻略しがいがあるなあそのシワ。もう、全体が「登ってくれ」って顔してますよ。

まんのすけ:してない。何を言っているのかわからないが、断固拒否する。それはワシの権利だ。

さやかっくす:そっすか。じゃ、またルート開拓の折にでも寄らせてもらいますね。

(さやかっくすはバネのように身を翻し、雨樋を蹴って屋根の彼方へと消える。まんのすけは震える手で窓の二重ロックを確認する。

NA:物理的な侵入者は防げても、他者という名の不条理な突風は、どうやら防げそうにない。

(幕)

作・千早亭小倉

さやかっくす|箱庭ここあん村の住人紹介
氏名:楠 さやか(くすのきさやか)年齢・性別:19歳(自称)・女性肩書:巨大塔「ペンタ」管理人(自称)、学バス運転手知的な議論を好むココアン村住民の中で、唯一「肉体の躍動」を信条とする異端児。物事を運動エネルギーとして捉え、「登るか、落ちる…
[コント台本・掌編 約600本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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