移動図書館日記(38)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

某月某日

地下駐車場の少し湿った空気の中で、ロマコメ号に積むコンテナを点検していたら、ふと、真木先輩と交わした言葉を思い出した。

アレの後、テレビからよく聞こえてきた「絆」という言葉。先輩は、あの言葉をどう思いますか、と尋ねたら、先輩はいつもの穏やかな笑顔で、少しだけ首を傾げて、こう言った。

「絆、ですか。……私たちのお仕事が、そこまで深く届いているかは、私にはまだ、わからないです。でも、活動を続けてきてありがたいのは、『縁』かなあ、って」

―― 縁。

私の頭の中の索引カードが、カタカタと音を立てる。『分類:人間関係』『キーワード:偶発的、接続』……。ダメだ。私の乾いた分類棚には、その言葉の持つ温かさが、うまく収まらない。

アレの後、右も左もわからなかった時、間に入って人と人を繋いでくださった方。私たちのわがままなお願いに、気持ちで応えてくださった方。そういう、一つ一つの出会いのことなのだと、先輩は続けた。

私の仕事は、本という「座標軸」を、決められた時間に、決められた場所に、完璧な秩序で届けること。それが、あの巨大な無秩序(カオス)に対する、私のささやかな抵抗だと思っていた。でも、その乾いた作業が、意図しないところで「縁」という、分類不能な何かを生んでいる?

ふと、ポール・ギャリコの『雪のひとひら』という物語を思い出した。空から落ちていく一片の雪が、地上にたどり着くまでの、ほんの短い時間に、たくさんのものと出会い、触れ合い、影響を与え合って、最後には少女の涙と溶け合って世界の一部になっていく、あの静かなお話。

私たちが届ける一冊の本も、あの雪の結晶みたいなのかもしれない。私の手を離れた後、誰かの手に渡り、その人の時間を少しだけ変えて、また別の誰かへと繋がっていく。私が直接見ることはできない、静かで、確かな「縁」の軌跡。

「その『縁』を、これからは、周りの人にも見えるようにして、その先の『絆』に育てていくのが、私たちの課題かもしれませんね」

先輩はそう言って、ふわりと笑った。

「絆」に育てる。それは、私の運行計画(ダイヤグラム)にはない、あまりに予測不能で、あたたかい課題だ。私の秩序の外側にある、その言葉の重さに、どう応えればいいのだろう。喉の奥で、忘れていた感情の出し方を思い出しそうになるけれど、うまく唇の形にできない。

今日の業務日報も、きっと、貸出冊数と巡回時間という、乾いた数字で埋まるだろう。けれど、その行間に、私にしかわからない記号で、この「縁」という言葉の温度を、そっと書き足しておくことにする。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

BMサブカテゴリー
higashiboctokをフォローする
タイトルとURLをコピーしました