これは、日記という名を借りた私の記憶。
某月某日
通用口のガラス戸越しに、大型バスの白いボディが現れる。いつものボランティアサークルの皆さん。けれど、今日は数が違う。年に一度の研修旅行。バスから降りてくる人また人。いつもの数倍いる。
ここはまだ、図書館というより巨大な倉庫だ。整理を待つ資料の山はあるけれど、三十人が腰を落ち着けるための椅子がまったく足りない。手伝いの声はもちろんありがたい。でも、埃っぽいコンクリートの床に、遠方からの来客を座らせるわけにはいかない。私の守るべき「図書館としての礼節」という防衛線が、音を立てて崩れそうになる。
「あの、申し訳ありません。作業していただくにしても、椅子の数がまったく足りなくて……」
出迎えた私の強張った謝罪を、顔なじみのリーダーの男性は、軽く笑い飛ばした。
「椅子? いらない、いらない! 私らは勉強しに来たんじゃないよ。身体を動かしに来たんだから。それも研修、研修」
その声を合図に、三十人のブック・ピープルたちが、薄暗いフロアへとなだれ込んでいく。
真木まき先輩や私との打ち合わせを早々に済ませ、ある人は積まれた段ボールを机代わりにし、ある人は壁に背中を預け、またある人は床に直接あぐらをかく。
いわむらかずおさんの絵本『14ひきのあさごはん』のページが、ふいに脳裏に重なった。 森のねずみたち大家族。彼らの食卓に、カタログにあるようなダイニングチェアなんてない。自分たちで見つけた切り株やきのこが、そのまま椅子になる。
「こっちの箱、終わりました!」
「その紐、取ってください」
作業靴が床を擦る音。ページをめくる乾いた音。交わされる短い言葉。私の心配していた「欠如」は、彼らの熱気であっという間に埋め尽くされた。彼らの背中は、どんな高機能なオフィスチェアに座るよりも、ずっと頼もしく、楽しげに見える。
一時間後、彼らはバスと共に去っていった。嵐が過ぎた後のように、資料の山は消え、整然とした書架だけが残されている。私は、ガランとしたコンクリートの床を見つめる。椅子がなければ座れない。そう思い込んでいた私の分類棚の「常識」というラベルが、床の埃と一緒に、きれいに掃き清められていた。
これは、日記という名を借りた私の記憶。
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