移動図書館日記(76)

これは、日記という名を借りた私の記憶。

某月某日

村のはずれ、かつて銀行だった場所で、硬い音が響いている。通りがかった私は、愛車を安全な路肩に停めて、エンジンを切った。もともと出不精で、私の世界は長らく自分の部屋の本棚の幅しかなかったのに、「あのこと」以来、こうして一人でハンドルを握る機会が増えたのは、なんとも皮肉な巡り合わせだと思う。

ここあん村は、暮らしている人間が思うよりも意外と広い。この銀行の支店も、存在自体は知っていたけれど、実際に目にするのは「あのこと」の後が初めてだった。私が利用するのは別の出張所だったから、生活動線の外にあるこの場所は、地図上の記号でしかなかった。

だから……。私にとってこの建物は、最初に出会ったときから、表紙が剥がれ中身が飛び出した「破損本」だった。

ショベルカーが、残っていた金庫の壁を押し潰す。すでに壊れてしまったものを、さらに細かく、徹底的に砕いていく。それが復興へ向かうために必要な作業だと分かってはいる。けれど、災害で「壊れた」ことと、人の手で「壊す」ことの、何が同じで何が違うのか、自分の中でこんがらがる。救えないほど傷んだ本が、未読のまま除籍され、溶解処理へ回されていく。その工程をただ見送る時のような、消化しきれないざらついた気分。

風が吹いて、乾いた土の匂いが鼻をかすめた。舞い上がる埃が目に入らないように少し目を細める。完全な姿を知らなかった場所が、知らないまま更地になっていくのを、私はただ、両手をポケットに突っ込んで見ていた。

これは、日記という名を借りた私の記憶。

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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