これは、日記という名を借りた私の記憶。
春を待つ風にしては、今日の外気は少し鋭すぎた。こんな日に限って、仮設住宅の集会所が別の行事でふさがっていて、ロマコメ号の受付は集会所の前に設けることになった。
もともと、外に設営するルールなのだけれど、ついていないなと正直に思ってしまうほどの風の冷たさだった。
それでも、簡易的なキャンプテーブルを広げ、受付用の用具を並べていると、見慣れた顔ぶれが集まり始める。
「寒いこと、寒いこと」
「千夏ちゃん、厚着してきた?」
そういうおかあさんたちは、私よりずっと薄着だ。反対に心配する私に、おかあさんたちの笑いの輪が広がる。
「私ら、すぐそこに住んでんだから」
「こうしていれば、少しは温かいでしょう」
誰かが私の背中をちょっと手荒にさすり、また誰かが肩を寄せてくる。おしくらまんじゅうのように密着した人肌の熱が、私の強張った身体と気持ちをゆっくりと解いてくれる。
小分けされたチョコレート、小さな袋に入ったおせんべい。そして、あたたかそうな作りたての焼き菓子。
寒い中がんばったご褒美? 利用者さんからの差し入れがいつもより多かったような気がする。なかには、土のついた野菜まで。
ジョージ・マクドナルドの『北風のうしろの国』を思い出す。厳しい冬を越えるための言葉は、辞書には載っていない。それは、誰かの差し出した手のひらや、寄せ合う肩の熱さの中に、そっと綴じられているものなのだと思う。
これは、日記という名を借りた私の記憶。
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