【登場人物】
モヤシ:植物への愛が深すぎる女性。語尾に「〜やし」がつく。ひどい方向音痴。
マッド:理知的な眼鏡の女性。エンジニア。甘いものに目がない。
【場面設定】
月面基地「満月亭」。余興で、モヤシとマッドがそれぞれ自分に扮し、キャラ強めに、みなの前で演じている。舞台は、「夕暮れ時、古いアパートの狭いキッチン。窓際の小さなプランターを囲む二人」といった感じ。

モヤシ:(土を指でつつきながら) お水、足りてるやし。
マッド:(冷蔵庫に寄りかかってチョコをかじりながら) さっきあげたばかりだろ。
モヤシ:でも、この子がもっと喉が渇いたって顔をしてるやし。
マッド:レタスに顔なんてない。ただの葉っぱだ。
モヤシ:そんなこと言ったら可哀想やし。マッド、お名前をつけてあげてやし。
マッド:名前。……サラダ。
モヤシ:もっと可愛いのがいいやし。ツキノコちゃん、とか。
マッド:勝手につければいいだろ。
モヤシ:あ、ツキノコちゃんが笑ったやし。ねえ、マッドも見てやし。
マッド:(眼鏡を直して覗き込む) 何も変わってない。光合成してるだけだ。
モヤシ:理屈っぽいのは嫌いやし。……あ、お外が暗くなってきたやし。
マッド:もう夜だからな。
モヤシ:大変やし。私、自分の部屋がどっちかわからなくなったやし。
マッド:ここ、ワンルームだぞ。後ろを振り向くだけでベッドだ。
モヤシ:後ろ。……こっちやし? (クローゼットの扉を開ける)
マッド:それは押し入れ。
モヤシ:レタスの横にずっと座ってたら、迷子にならないやし?
マッド:腰を痛めるからやめろ。ほら、私の服を掴んでろ。
モヤシ:マッドは優しいやし。ずっと離さないでやし。
マッド:(少し顔を赤くして) チョコ、半分やるから早く移動しろ。
モヤシ:チョコより、マッドの指の合図がいいやし。
(幕)
野暮な解説 「指の合図」とは?
「指の合図」は、マッドが極度の方向音痴であるモヤシのために編み出した、二人にしか通じない「無言のナビゲーション」です。
モヤシは「右に曲がって」と言われても、その「右」がどっちか分からなくなる……ことも? だから、マッドが黙って指先でシュッと方向を示す。言葉で説明するより、その指先の動きをトレースする方がモヤシには確実。というより、マッドにとっては、「いちいち説明するのが面倒だから」という合理的な手段なのです。そして、モヤシにとっては、愛する(?)マッドが導いてくれる「魔法のしるし」。二人の間にある、歪だけど完成された信頼関係が、あの短いセリフに込められているのです。こういう「生活の中から生まれた独自のルール」が、キャラクターの距離感が伝わりますよね?(言い訳がましい?)
作・千早亭小倉
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