登場人物
黒崎文:文芸部部長。言葉に対してひたすら厳しい。
天野光:女子バスケ部。なんでも肯定しようとする。
場面設定
放課後の教室。机の上に、コンビニのたまごサンドイッチが一つ置かれている。
天野:ねえ文ちゃん、このサンドイッチ、中身がすごくはみ出してるよ。
黒崎:それはただの不始末。
天野:でも、自分の一番いいところを見せようとしてるみたいで、かわいいじゃない。
黒崎:いいところを見せるのと、だらしなくこぼれているのは違う。
天野:こぼれるのは、それだけ中身が詰まってるってことだよ。
黒崎:中身が多ければいいという考えは、とても安っぽい。
天野:安くてもいいよ。だってお腹が空いている時に、これが目の前にあったら嬉しいもん。
黒崎:光は石ころが落ちていても、その忍耐強さを褒めそうね。
天野:石だって、何十年もあそこでじっとしてるのは偉いと思う。
黒崎:その全肯定が、言葉の重みを奪っていることに気づきなさい。
天野:重いと、砲丸みたいに弾まなくなっちゃうよ。
黒崎:弾まなくていい。言葉は地面に深く突き刺さるものであるべきよ。
天野:突き刺さったら、抜くのが大変だよ。
黒崎:抜けないからこそ、そこに居場所ができるの。このサンドイッチには、それがない。
天野:私は、ふわふわしてるからこそ、どこへでも行ける気がするけどな。
黒崎:どこへでも行けるのは、どこにもいたくないのと同じ。
天野:そんなに難しく考えなくても、一口食べれば黄色い味がするよ。
黒崎:黄色い味なんて言葉、この世にはない。
天野:今、私が作ったの。文ちゃんも一口食べて、色と重さを感じてみなって。
(幕)
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