【登場人物】
平泉 慧:ここあん大学M2。理論物理学。エネルギー保存のため動かない。
花野 環奈:ここあん大学M2。古生物学。汚部屋を地層と呼ぶ変人。
【場面設定】
ここあん大学、巨大塔ペンタのラウンジ。テーブルの上には、飲みかけのペットボトルや丸まったプリント、菓子の空き箱が積み重なっている。

平泉:環奈様、そこのプリントの山の下にある、青いペンを取ってくれない?
花野:え、平泉さんの方が近いじゃん。手を伸ばせば届くよ。
平泉:今の姿勢から腕を伸ばすと、背中の筋肉に不要な負荷がかかる。無駄なエネルギーは使いたくないんだな。
花野:要するに、面倒くさいから動きたくないってことでしょ。相変わらずだねえ。
平泉:面倒なわけじゃない。体力を温存しておくのが、一番賢いやり方だと言っているだけ。
花野:はいはい。でもね、これ取るには、このプリントの地層を崩さなきゃいけないのよ。
平泉:地層って。ただ紙が重なっているだけじゃない。
花野:ただの紙じゃないよ。一番下が昨日の講義の資料、真ん中が一昨日のコンビニのレシート、上がさっき食べたグミの袋。ちゃんと時間の順番に重なってる。
平泉:なら、その束ごと横にずらせばいいって。持ち上げるより、すべらせる方が力も要らないからね。
花野:それだと、こすれて下のレシートが破れちゃうかもしれないでしょ。発掘は丁寧にやらないとダメなの。
平泉:レシートが一枚破れたところで、花野様の生活に何か影響が出る?
花野:わかってないなー。このレシートには、一昨日の夜に誰かがどうしてもおにぎりを食べたくなったっていう、大事な証拠が残ってるの。そういうの、なんか愛おしいじゃん。
平泉:よくわからない。というか、まったくわからない。終わったことの記録なんて、現在のシステムにおいては「前の時間のチョークの跡」でしかないと思うけど。
花野:それが面白いんじゃない。その「前の時間のチョークの跡」って表現いただき。ほら、青いペン。地層の底から掘り出してあげたよ。
平泉:ありがと。この何ターンかのやり取りが必要だったかは考えないでおくけど、これでノートの続きが書ける。
(幕)
作・千早亭小倉
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