架空の街「ここあん村」を舞台に、そこに生きる人々の日常と密やかな内面を鮮やかに切り取った12編の連作短編集です。居酒屋のママ、完璧主義の駅員、孤独な映画館主など、不器用で愛すべき住人たちが織りなす群像劇。社会のノイズから離れた個人の豊かな時間を、美しい情景描写とともに味わえる珠玉のヴィネット集です。
収録話あらすじ
スケッチ01「たたこは夢の中」 バンドの練習を控えた初夏の気怠い午後。ドラマーのたたこは、部屋の埃が光に舞う中、お気に入りのスティックが見つからないという小さな事件の中で、思考を浮遊させながら微睡みのような静かな時間を過ごす。
スケッチ02「ラブちゃんの筑前煮」 居酒屋「ここきた」のママ、愛子。開店前の静かな厨房で、彼女は常連客の顔を思い浮かべながら、名物の筑前煮を仕込む。愛情と手間をかけた大鍋が、今夜も誰かの心と体を温めるのを待つ、優しさに満ちた時間。
スケッチ03「鈴が鳴る」 定時運行を至上命題とする駅員・鉄美鈴。大雨による遅延で乗客の不満が渦巻く中、完璧な対応で状況を捌く彼女は、憧れの運転士・渋沢との無線越しのやり取りと視線の交差に、内なる熱いときめきを隠せずにいた。
スケッチ04「志乃の雨音」 喫茶「小古庵」のママ・志乃。閉店後の静まり返った店内で一人、客たちの様々な物語を反芻する。雨音が窓を叩き始めた時、彼女の穏やかな母性の仮面が外れ、誰にも見せない生々しく艶やかな「女」の顔が現れる。
スケッチ05「森と太陽」 ここあん村のはずれの深い森。そこには外界と遮断された孤高の気配があった。森の調和を感覚で受け止める風来坊の太陽と、完璧に隠された秘密の匂いにスクープの興奮を覚えるライターの真田丸の姿が交差する。
スケッチ06「鶴亀昌子は矛盾している」 締め切り前の編集プロで、小説家の徒然士は激務の編集者・昌子の美しい肌という矛盾に直面し混乱する。彼女の謎を論理的に解明しようと観察を続けた結果、理屈を超えた生命の輝きを悟り、傑作を書き上げる。
スケッチ07「京子でちゅ」 完璧な美意識を持つ声楽講師・ボラン京子。休日の午後、バッハを聴きながら優雅に読書をしていた彼女だが、愛犬の大型犬が甘えてきた途端、威厳は崩壊。赤ちゃん言葉で犬を溺愛する無防備な素顔をさらけ出す。
スケッチ08「阿斗理恵、満艦飾」 アパートの大家・阿斗理恵。夏の陽射しと蝉時雨の中、庭で住人たちの洗濯物をタライと洗濯板で力強く洗い上げる。水飛沫と汗、リズミカルな労働の音は、生命の躍動そのもの。彼女のたくましくも美しい生の交歓。
スケッチ09「環の構造計算」 英会話サロンを主宰する完璧な淑女・水島ゆかり。建築家の珠環は、ゆかりの完璧な外見の裏にある「構造」を観察していた。そこへ現れた青年・陽の囁きによってゆかりの仮面に走った亀裂を、環は面白く見つめる。
スケッチ10「グッド、伊武人具」 閑古鳥が鳴く名画座「夕日座」の支配人・伊武。映画館とフィルムをこよなく愛する彼は、友人たちと酒を飲んだ後、夜更けの映写室で一人、映画館を守る「カメラ頭」の衣装作りに没頭する少年の心を持ち続けていた。
スケッチ11「おはぎはんの正義」 余計なものを一切入れない実直なおはぎを作り続けるおはぎはん。自分の舌が信じる味だけを追求し、出来上がったおはぎを馴染みの老婆・ばっしょいの元へ無言で届ける。誰に媚びることもない、彼女だけの正義。
スケッチ12「坂の上のばっしょい」 今は亡き家族と営んでいた店を一人守る老婆・ばっしょい。客の来ない静かな初夏の午後、彼女は時計の音や風の音とともに、懐かしい家族たちの幻聴に包まれる。孤独ではない、思い出と共にある豊かで静謐な時間。
こんな人におすすめ
効率や正しさに少し疲れた人、日常の些細な出来事や、他人の不器用な生き方を愛おしく感じたい人へ。
![[公式]千早亭小倉の世界 | ここあん村案内所](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/01/tops2.jpg)

