【登場人物】
菜箸 千夏:司書。本の並びが少しでも傾くと落ち着かない。
菜箸 かな:千夏の姉。翻訳家。袋のシワやパンの凹みを面白がる。
【場面設定】
夕方の移動図書館。カウンターで千夏が作業をしている。そこへ、スーパーの帰りのかなが入ってくる。
かな:千夏、見て見て。今日のネギ、すごく立派。
千夏:お姉ちゃん。そこに置かないで。さっき拭いたばかりだから。
かな:土がちょっとついているだけじゃない。雨上がりの匂いがして、いいと思うけどな。
千夏:それは図書館にとっては「汚れ」です。あ、その袋のパン、重なって潰れていますよ。
かな:本当。でもこの潰れた形、なんだか使い古した枕みたいで可愛いじゃない。
千夏:(本の背表紙にテープを貼る)……あ。
かな:ん、どうかした?
千夏:端っこが、少しだけ斜めに。ギザギザの切り口も、一箇所だけ潰れてるし。
かな:いいじゃない。あなたが今日、ここで一生懸命に直したっていう印だよ。
千夏:印なんていりません。これはテープの台が古いせいだ。それで、刃がうまく噛み合わなかったのか……。
かな:やり直すの? 剥がしたら、表紙の紙が少し毛羽立つよ。
千夏:……それは、仕方のないことです。予期せぬトラブルとして処理します。
かな:そうやって、全部きれいに整理しようとするんだから。その毛羽立ちにこそ、誰かの体温が残るのに。
千夏:本は、誰が触っても同じ温度であるべきです。お姉ちゃん、わざと私の邪魔をしてるでしょう?
かな:そうかも。あなたが眉を寄せてテープと戦う姿、生き生きしてて好きなの。
千夏:応援なら、家でやってください。
かな:わかった。先に帰って肉豆腐作るね。お豆腐、形を崩して煮込んでもいい。
千夏:四角く、角を立てて切ってください。お願いします。
かな:はいはい。あんまり根を詰めないようにね。
千夏:(去るかなを見送る)……やっぱり、少し傾いてる。
(幕)

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