コント「旅人算とクリシェの現在地」

【登場人物】
黒崎 文
(A組):文芸部部長。「魂」と「エスプリ」にこだわる「熱い最強」。
堂島 巧(A組):文芸部員。「定義」と「構造」の番人。
リリカ(B組):シニカルな「冷たい最強」。弟(太陽) が天敵。
氷上 静:ブックカフェ「シズカ」オーナー。
中野 小春:「シズカ」共同オーナー 。大樹のような受容性 。

【場所】湖畔のブックカフェ「シズカ」。気まずい空気が流れている。

(静が注文の品を用意しにカウンターへ戻る。黒崎、堂島、リリカの三人が残されたテーブルに、再び静寂が落ちる。黒崎が、目の前で問題集を解き続けるリリカを、いぶかしげに睨む)

黒崎 文:……それはそうと、リリカ。お前はさっきから何を解いているんだ。その、数字の羅列は。

リリカ:(ペンを止めず)旅人算。

黒崎:たびびとざん……?(眉をひそめ)まさか、あの「兄が分速60mで歩き、弟が分速180mの自転車で追いかける」という、文学の対極にある、あの無味乾燥な……。

堂島 巧:(黒崎の文学的解釈は無視し、リリカに向かい)旅人算。それは初等教育における速度算の一形態だ。リリカ、君は今、小学校の算数からやり直しているのか?

リリカ:(深く、冷めたため息をつき)……弟の宿題よ。

黒崎:ああ……(納得した顔)あの、「孤独」を虫カゴで捕獲する という、不条理の塊か。

堂島:論理が通用しないサンプルだな。なるほど、君が介入せねば、設問自体が崩壊する危険性がある、と。

リリカ:「A君とB君が、周囲1.2kmの湖のまわりを……」。もういいわ、この話は。

黒崎:(何かに気づき、低い声で)……いや、待て。そもそも、なぜ「旅人」なのだ。ただ湖の周りをグルグルと回っているだけではないか。そんなものは「散歩」か「徘徊」だ。そこに「旅」のエスプリ(精神)が、一滴も感じられない。

リリカ:黒崎さん、エスプリの話ももういいわよ(苦笑)。

堂島:いや、部長の指摘は妥当だ。「旅」とは、起点と終点を持つ目的地への移動プロセスを指す。周回運動は定義上、無限ループだ。ネーミング自体が破綻している。

黒崎:魂と定義のせめぎあいだ。「ウィットに富んだ老教授」が、会話の最後に、決まって片目をつぶって「ウィンク」をするなどと、だれが決めた!?

リリカ:……急にどうしたの。ああ、新人賞の小説の話ね。

黒崎:クリシェ! 魂の怠慢! そんな記号的な表現に、エスプリなど宿るものか!

堂島:ウィンク……。親愛あるいは共謀の意図を示す、眼輪筋の意図的な収縮運動。

(その時、氷上静のパートナー中野小春が買い物袋を抱えて戻ってくる)

中野小春:あら、皆さん。今日も熱心ね。何のお勉強ですか? お店の外まで聞こえてきましたよ。

堂島:これは旅人算の定義とクリシェの関連性についての……。

小春:旅人算! 懐かしい。あ、そうだ。このカフェの目の前にある湖使ったらどう? ええと、ちょうど一周12kmくらいって言われてますよ。

リリカ:「ちょうど」なのか、「くらい」なのか。

小春:ねえ、みんなで実際に歩いて、追いかけっこしてみたらどうですか? 誰が一番早く出会えるか。

(小春、心の底から楽しそうに、片目をつぶって「ウィンク」をする)

黒崎:…………!(絶句)

堂島:(ノートを取り出し、猛烈な勢いで書き込む)『観測サンプル:中野氏のウィンク。角度、約15度。持続時間、0.8秒。意図、純粋な親愛。クリシェとの関連性、不明……。』

リリカ:(小春の完璧なウィンクを冷静に見つめ、固まっている黒崎に向かって)……黒崎さん。

黒崎:……なんだ。

リリカ:あれが、あなたの言う「魂(エスプリ)」の現在地のようね。

黒崎:(こめかみを押さえ、絞り出すように)……氷上さん。私のアールグレイを早く。

(幕)

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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