3丁目駅の改札口で男が泣き叫んでいた。
「火曜だ! 俺が池袋を出たのは火曜の朝なんだ! なんで金曜になってるんだよ!」
握りしめたスマホの画面には、取引先からの不在着信が五十数件。男のネクタイは歪み、目は血走っている。
ここあん鉄道の駅員・鉄美鈴は、白手袋のシワを丁寧に伸ばしながら、冷ややかな視線を落とした。
「お客様、当駅をご利用いただきありがとうございます」
「ありがとうじゃない! 契約が! 俺の人生が!」
「左様でございますか」
美鈴はまったく乱れのない動作で懐から紙の束を取り出し、流れるようなペン捌きで何かを書き込んだ。そして、それを男の胸ポケットにスッと差し込む。
「こちら、遅延証明書になります」
「は?」
「『時空のねじれにより72時間遅延』と明記しております。これから向かわれる先でお出しになれば、おわかりいただけるものと」
「こんなの通じるか!」
「秩序は守られました。急行電車が通過いたします。白線の内側へお下がりください」
美鈴は短く笛を吹き、放心する男を改札の外に追い出した。
(了)
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