窓の外から、周期的な低周波が聞こえてくる。太鼓の音だろうか。地層を伝わる遠い地震計の波形のように、規則的な振動が断続的に空気を揺らしている。アパートの大家さんが、廊下を掃きながら「今日は秋祭りですよ」と教えてくれた。「祭り」というラベルの貼られた、人間の集団的活動。
人々はこれを「伝統」や「息抜き」といった言葉で理解するらしい。だが、私の耳に届くのは、意味や感情の層を剥ぎ取られた、ただの物理現象としての音波だ。特定のヘルツで反復されるこの振動は、個体の神経系に作用し、一種の同調を引き起こすのではないか。
北米の周期ゼミは、13年あるいは17年という素数の周期で一斉に羽化し、地上に現れる。捕食者を飽和させ、種の存続確率を上げるための、極めて洗練された生存戦略だ。彼らの行動を同調させるトリガーは、未だ完全には解明されていないという。
この町のざわめきもまた、人間という生物を同調させるための外部トリガーなのかもしれない。年に一度、同じ時期に、同じリズムを共有する。それによって共同体の結束を確認し、内部のストレスを均質化させる。個体発生的には文化や娯楽と認識されるこの行動も、系統発生的には、サンゴの一斉産卵やヌーの大移動といった現象と同じ地層に属する、生存のための儀礼と観測することも可能だろう。
人々が熱狂と呼ぶものの正体は、個々の意識が、より大きな群体のリズムに共鳴している状態に過ぎないのかもしれない。窓ガラスを微かに震わせる音を聞きながら、私は素数ゼミの静かな地下生活を思う。
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