【登場人物】
ケイヨウ:元文芸部員。風景や事象の描写に異常な執着を持つ。ただの歩道を無駄に細かく描写し、現実という「世界観」の解像度を無理やり上げようとする。
リリカ:シニカルな女子生徒。現実の出来事をすべて「プロット」や「フラグ」のデータとして処理する。無駄な会話が続くと、自分の「モブキャラとしてのステータス」が固定されると本気で危惧している。よく胃を痛めている。
黒崎文:文芸部部長。物語の「魂」と「構成」を絶対視する。不要な描写を「駄文」として静かに、かつ徹底的に切り捨てる。設定や描写の奴隷になることを何よりも嫌う。
【場面設定】
ここあん高校、ペンタ下層階にある空き教室。暖房の効きが悪く、ただ手が冷たくなるだけの放課後。窓の下には、インターロッキングブロックで舗装された歩道が続いている。

ケイヨウ:窓の外の歩道を見ていると、アスファルトの一続きの滑らかな流れとは違う、個の集合が作り出す秩序を感じるね。幾何学模様が連続するインターロッキングの歩道は、整然と敷き詰められたブロックの継ぎ目が……。
リリカ:だから何。
ケイヨウ:タイル状のブロックが連なる、硬質な感触。あれは荷重を分散させる特有の安定感があって、雨水を吸い込むように設計された機能美が……。
黒崎文:駄文。
ケイヨウ:え。
黒崎文:舗装されている時点で、その道に物語の魂はない。未舗装の泥道で主人公の靴が汚れ、そこから心理的な摩擦やイベントが発生するならまだしも、ただ歩きやすいだけの道の材質を語るのは無意味だ。無駄な描写は物語の建築を歪める。
リリカ:文字数稼ぎの三流プロットね。作者が展開に行き詰まって、とりあえず地面の解像度を上げてお茶を濁しているのが見え透いている。
ケイヨウ:しかし、視覚情報と接地感の描写は、世界観のリアリティを……。
リリカ:そういう無駄な描写が続くせいで、私たちの会話のテンポが死んでいる。このままじゃ、ただ背景で適当な日常会話をしているだけの、モブキャラとしてのステータスが固定される。私の存在感が削られていることに気づかないの。
黒崎文:事象をやたら長く描写するお前の悪い癖だ。「道を歩いた」。事実としてはそれだけで十分だ。
ケイヨウ:街路樹の根元を縁取る、意匠を凝らした舗装路の美しさは、読者に……。
リリカ:胃が痛くなる。私が今この空間で処理すべきデータは「教室の暖房が効かなくて手が冷たい」という事実だけ。路面の排水性の話なんて、この先のフラグ回収に1ミリも……いや、ミリとかそういう細かい単位を使うのは気持ち悪いからやめる。とにかく、全く関係ない。
黒崎文:その通りだ。舗装されている道なら、材質なんてどうでもいい。設定の奴隷になるな。
ケイヨウ:……じゃあ、歩道の材質の描写は、いらないと。
黒崎文:ああ。
リリカ:ええ。
ケイヨウ:……。
黒崎文:……。
リリカ:……で。
(幕)
作・千早亭小倉
![[公式]千早亭小倉の世界 | ここあん村案内所](https://atelier-cocoan.com/wp-content/uploads/2026/01/tops2.jpg)

