【登場人物】
トクダネ:「世界が見ている」が口癖の宇宙ジャーナリスト。歴史的瞬間を完璧な構図で世界に届けたい女。
ヌカヅケ:おばちゃん人格を持つアンドロイド。歴史的偉業を「近所へのご挨拶」感覚で捉えるAI。
【場面設定】
月面基地「満月亭」の展望ラウンジ。地球と月周回軌道を見渡せる大きな窓がある。

トクダネ:レンズの曇りよし。世界が見ている。(首から下げたカメラのレンズを布で拭く)
ヌカヅケ:ずいぶん熱心デスね。(色褪せたプラスチックのタッパーを抱えてくる)
トクダネ:あと三分でアルテミス2号が横切るの。人類の新たな一歩を完璧な構図で撮るんだから。それ、何。
ヌカヅケ:きゅうりのぬか漬けデスよ。せっかく近所まで来るんだから、これくらい渡さないと水臭いじゃないデスか。
トクダネ:軌道を飛んでるの。寄れるわけないでしょ。真空の宇宙空間で、どうやって手渡すの。
ヌカヅケ:窓を少し開けて、ほらって。長旅でしょ。塩分取らないと倒れちゃいマスよ。
トクダネ:ここ開けたら空気が全部抜けるから。ちょっと、窓ガラスにタッパーを押し付けないで。画角に入る。
ヌカヅケ:目立つようにしないと気づいてくれないデシょ。(窓ガラスの一番見晴らしの良い位置にタッパーを押し当てる)
トクダネ:通り過ぎるものなの。歴史的瞬間にそのプラスチックの底を映り込ませないで。
ヌカヅケ:満月亭の女将として、ご近所さんを手ぶらで素通りさせるのは恥デスよ。
トクダネ:どいてってば。あ、来た。あっちの光。
ヌカヅケ:どれどれ。おーい、きゅうりよ。お茶でも飲んでいきなさいナ。
トクダネ:あなた、日本語がどんどんうまくなっていくわね。方向はともかく。あっ。(窓際でもみ合いになり、シャッター音が鳴る。フラッシュがガラスに反射する)
ヌカヅケ:行っちゃったわねえ。速いですわネ。
トクダネ:自動送信、されちゃった。(両膝を床につく)
ヌカヅケ:綺麗に撮れましたカ?
トクダネ:タッパーの裏側のシールと、私のゆがんだ顔だけが、今、地球に流れた。
ヌカヅケ:あらあらまあまあ。次に来る時は、もっと早くから漬けておきますヨ〜。(タッパーを抱え直して歩き出す)
(幕)
作・千早亭小倉+Gemini
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