箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説(掌編・スケッチ)

大人のための寓話「ささやく果実」

世界の錆びついた蝶番のような丘の上に、その樹は一本、立っていた。誰が植えたのか、いつからそこに在るのか、誰も知らない。ただ、その枝には年に一度だけ、磨き上げられた琥珀の中に小さな太陽が閉じ込められているかのような果実が、たったひとつだけ実っ...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「常磐荘綺談」

ジッポーのキシンッという金属音が響いた。湿った苔と冷え始めた土の匂いを、オイルがたちまち上書きする。安煙草の紫煙が囁くように耳元を通り過ぎても、鴨下栞は振り返らなかった。この石階段は栞の観測所だが、同時に、後ろにいるたたこの指定喫煙所でもあ...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「お菓子どうどうめぐり」

活田町のライブハウス「ガーデンガガガーデン」の楽屋は、人の匂いがした。ステージの狂騒を吸い込んだアンプが、沈黙のうちに熱を放っている。床には無数の靴跡と、黒いシールドケーブルが力なく転がっていた。誰かが、込み上げる感情を唾と一緒に飲み下す音...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

新作落語「ちはやふるふる」酔酔亭馬楼

えー、人間てえのは不思議なもんで、こう頭がぼうっとする暑い時に限って、妙に利口ぶってみせたくなる御仁てえのが、どこにでもいるもんでございます。なに、暑さは関係ねえだろうって? まあまあ、いいじゃねえですか。で、この知ったかぶり、これがまた様...
箱庭小説(掌編・スケッチ)

箱庭小説「眉毛」

古河書店のガラス戸の向こうで、陽光がアスファルトを焼いている。もう何時間も、客の姿はない。店主の古河佐助は、カウンターの奥、自分の尻の形にへこんだ座布団の上で、膝の文庫本から顔を上げた。文字は視界を滑っていくだけで、意味を結ばない。店の中は...