寄港地

ものがたり一覧

掌編「呼吸」

休日の夜、ブックカフェ「シズカ」の二階にある居住スペースは、静謐な空気に包まれていた。一階の店舗の明かりはすでに落ち、外の喧騒もここまで届くことはない。壁掛けのテレビからは、くぐもった爆発音が響いていた。画面の中では、無精髭を生やした男が、...
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掌編「槍と盾、湖畔にて」

湖を渡る風が、岸辺の葦を乾いた音で揺らしている。その微かな摩擦音に重なるように、二つの足音がブックカフェ『シズカ』へと続く小径を刻んでいた。一つは、弾むような、それでいてどこか危うい性急なリズム。もう一つは、その数歩後ろを歩く、湿った土を静...
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掌編「寄港地の午後」

六月の光は、ブックカフェ『シズカ』の床に、気の早い夏の気配を運んでいた。レコードプレーヤーの針が拾う、かすかなノイズの向こう側で、一音一音、次に置くべき響きを確かめるような、思慮深いピアノが流れている。その静かな余韻に寄りかかるように、乾い...
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掌編「繕われた地図」

湖からの反射光が、ブックカフェ『シズカ』の床に、ゆらゆらと動く菱形の模様を描いていた。光は磨かれた床板を滑り、壁一面の本棚の、古い背表紙の金文字を一瞬だけ照らしては、また別の場所へと移っていく。レコードプレーヤーからは、抑制の効いたピアノの...
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掌編「月の裏側の観測」

スタシス・エイドリケビチェス『クレセント・ムーン』に着想を得て。