環奈への手紙

ものがたり

環奈への手紙(3)

音の「周期」と「共鳴」。元ピアニストの私にとって、少し懐かしくて、胸の奥に突き刺さる言葉だわ。 あなたが聴いているのはお祭りの賑やかさではなく、空気を震わせる物理的なヘルツなのね。群体のリズムに同調して、内部のストレスを均質化する。 もしこ...
ものがたり

環奈への手紙(2)

――命名は、解像度を低下させる行為。 手厳しいけれど、図星。 香料に「ローズ」や「サンダルウッド」とラベルを貼った瞬間、その奥にある複雑な分子の揺らぎを見ようとしなくなる。記号で括って安心したがる大人たちへの、あなたらしい皮肉。あなたは、激...
ものがたり

環奈への手紙(1)

「思考のタフォノミー」……。死を、単なる終わりではなく「記録へのプロセス」として捉えるあなたの視点は、あなたが環奈だとするなら、相変わらず冷たくて、そしてゾッとするほど美しい。あなたが書いた「揮発性の有機化合物」という言葉。調香師である私に...
ものがたり

環奈への手紙

アンバーの遮光瓶を棚に戻し、指先に残ったベチバーの根の土臭さを静かに吸い込む。湿った土壌の香りは、神経のささくれを均すのに都合がいい。作業台の端に置いたタブレットの画面が、静かなアトリエの空気を白く切り取っている。植物の化学組成について調べ...