水没した過去との境界
路線の中心に位置し、ここあん湖に隣接する駅。湖底に沈んだここあん大学旧キャンパスと物理的に最も近い場所にあります。鉄美鈴の主勤務駅は、この大学前駅です。

駅舎は、湖の景観を望むことができる堅実な造り。駅務室には運行状況を管理するモニターが並び、マニュアルと規定を絶対視する美鈴の城として機能しています。
この駅の大きな特徴は、ここあん湖から流れ着いた「思い出の品」の集積場として機能する「遺失物保管室」が併設されている点です。泥のついた古い辞書や変色したノートなど、持ち主不明の遺物が保管されており、鉄美鈴は「拾得物法に基づく適正な処理」と、図書館司書(鈴木美桜など)が主張する「記憶の保存」との間で、事務的な葛藤を抱えながら管理を行っています。
地層3のエピソード
駅では、さまざまなドラマが生まれます。「あれ」によって姿を変える前の大学前駅。ここで、伸び悩む二つ目の落語家・酔酔亭馬楼と、完璧主義な「代弾き」ピアニスト・糠森ひなが偶然出くわし、激しい言い合いを繰り広げました。怒ったひなが駅の階段を背に立ち去った後、一人残された馬楼に声をかけたのは、バー「海」の妖艶な店主・海ママでした。彼女はふたりのやり取りの一部始終を観察しており、表舞台に立てない「代弾き」という仕事の過酷さと、ひなが抱える孤独を馬楼に説き聞かせました。この駅での出来事は、不器用な馬楼とひなが互いを理解し、深く共鳴していく重要な契機となります。災害を経て現在は応急の建付けのような佇まいとなっていますが、ここには住人たちのそんな記憶が確かに刻まれているのです。
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