箱庭コント「バイプレイヤーズ@ここあん村」

ここあん村の150人を超える住人たちは、みなが主人公。脇役はいないのですが、ここは普段登場しない、住人のパートナー(?)にバイプレイヤー役をお願いして。

【登場人物】
郷田剛の妻
:商店街会長・郷田の妻。70代。スーパー「人生」の裏を支える実質的権力者。
高島雅也の妻:ここあん図書館館長・高島の妻。30代後半。モラハラ気味な夫をスルーするスキルを持つ。
相田ミキの夫:きさらぎタウンの主婦・相田ミキの夫。30代。妻の圧倒的ポジティブに精神を削られているサラリーマン。

【場面設定】
夕暮れのここあん湖畔のベンチ。疲れ切った大人三人が、並んで座っている。

相田の夫:で、昨日の夕飯、幕の内弁当を買ってきたはずなんですけど、ご飯とおかずが全部混ぜ合わされて、巨大な固形おにぎりになって出てきたんですよ。

高島の妻:混ぜて固めた? 幕の内をですか?

相田の夫:はい。この前のwiki風の紹介記事で、妻が「天然のクラッシャー」って書かれてたんですよ。あれを読んで、「味の境界線をクラッシュしてみたの! これでみんな仲良し!」って満面の笑みで言われまして。焼き魚と煮物と白飯が融合した何かを、かじりつきました。

郷田の妻:あんたの奥さん、相変わらず言葉の受け取り方が斜め上いってんねえ。それにしても、あの記事だよね、問題は。「銅像を建てる野望に燃える」なんて書かれたもんだから、本人、すっかりその気になっちゃって。

相田の夫:まあ、郷田さんと言えば、銅像ですからね。

郷田の妻:ほんとだよ。塊は塊でも、うちの馬鹿旦那が取り憑かれてるのは、自分の塊だからね。

高島の妻:そういえば、昨日も、スーパーの入り口のところで、メジャー持ってウロウロしてましたよ、郷田会長。

郷田の妻:でしょう? それがさ、業者呼んで見積もり取ったら、ブロンズ像は高すぎるってんで、今朝からバックヤードで発泡スチロール削り始めたのよ。切りくずが特売のネギにくっついて、私が全部ガムテープでペタペタ取る羽目になってんの。

相田の夫:発泡スチロールの銅像……いや、発泡像? スチ像? 風で飛んでいきそうですね。

高島の妻:でも、相田さんの奥さんは無邪気だし、郷田さんの旦那さんは元気というかやんちゃでいいじゃないですか。うちなんて、あの村人紹介のwiki風記事のせいで家の中が息苦しくて。

郷田の妻:高島さんのとこは、えーと、「正論という名の鎧を纏った完璧主義者」だっけ?

高島の妻:ええ。鎧ですよ、何時代だっていうの。それに加えて、「持ち帰った職員たちの日報を夜中に読み、自分の孤立感に頭を抱える裏の顔を持つ」って、思いっきりバラされちゃって。本人は隠してるつもりだったようで、あの記事を読んでから妙にプレッシャー感じてるみたい。

相田の夫:プレッシャー?

高島の妻:ええ。裏の顔を知られたからには、家でも、より完璧な館長でいなきゃいけないと思ったのか……。

相田の夫:ああ、そっちに振れたか。なぜ、みなそっちに振れるのか。

高島の妻:そうなんです。ゴミの分別のルールをA4用紙24枚にまとめたものを、縮小コピー取って製本して、冷蔵庫にぶら下げてるんです。プラゴミを洗うお湯の温度まで指定されてて。あと、索引まで付いてる。

郷田の妻:え、だって村が配布している、分別ルールのポスターと冊子があるでしょう? あれも相当詳しいよ?

高島の妻:あります、うちにも、それ。でもあの人、あんなのじゃ足りない、いやこう書かないと誤解が生まれる、こうしたらまとめられるじゃないかって、もうのめり込んじゃって。

郷田の妻:うわぁ、めんどくさ。私ならその紙ごと燃えるゴミに出すわ。

高島の妻:同じこと、私が言ったら、「ホチキスは外すんだぞ」って、もう何がなんだか。あと、深夜に部下の業務日報を読むのが恥ずかしくなったみたいで、最近はクローゼットの中に隠れて読んでるんですよ。おかげで、主人のスーツが全部、鉛筆の匂いがするんです。

相田の夫:亜鉛だ。しかし、暗いクローゼットの中で日報。なんか、想像するとちょっと怖いですね。

高島の妻:200ルーメンのヘッドライトだか何だかを100均で見つけてきて。

郷田の妻:ひえー。どこの家も、あのwiki風記事のせいで余計な仕事が増えてるってわけだ。誰が書いたか知らないけど、迷惑な話よ、ほんと。

相田の夫:うちなんて、クラッシャーの次は「私はきさらぎタウンのトリックスターよ!」って言い出して、タワマンのエレベーターのボタンを全部押す遊びを始めたんです。

高島の妻:全部? まさか、みんなが会社や学校やごみ捨てで、エレベーターが混み合う時間帯じゃないですよね?

相田の夫:いえ、そのまさかです。僕が「みんな急いでるから迷惑だろ」って怒っても、「みんなで全階の景色を楽しんだほうが、朝の空気がハッピーになるじゃない!」って。毎朝、みなさんに僕が土下座してます。

郷田の妻:うーむ、人に迷惑をかけるのはよくないよね。しかし、旦那さんも苦労してんねえ。そういえば、海んとこの旦那、今日は来ないの?

高島の妻:ああ。海ママの旦那さん、さっき連絡があって。「妻が開店前からパチンコのリーチ気分を味わうために、家の中のBGMをずっとベートーヴェンの『運命』に固定してるから、気が休まらない。今夜は裏の納屋に泊まる」だそうです。寝床作ってるのかも。

相田の夫:そういえばそんなこと書いてありましたね。『運命』だったんだ、かける曲。海ママさんのところが一番大変かもしれないな。

郷田の妻:ジャジャジャジャーン、ってやつだろ。朝からそれ聞かされたら、そりゃ出ていきたくなるわな。

高島の妻:私も、クローゼットの鉛筆の匂いのほうがまだマシに思えてきました。

相田の夫:大きいおにぎりってのも、悪くないのかも。

郷田の妻:あら、おひさまが隠れちゃったよ。ねえ、これからどっか飲みに行く?

相田の夫:いいですね。でも、今日の夕飯がちょっと楽しみだったりするので、また今度に。

高島の妻:私も、クローゼットにライトつけようと思って。いいのが見つかったんですよ。

郷田の妻:あんたら。なんだかんだで楽しそうじゃない。ああっ!

高島の妻:どうしました?

郷田の妻:あの馬鹿旦那。私のカーディガン、発泡スチロールの粉だらけじゃない。そこでガムテープ借りてくる。またね!

(郷田の妻、湖畔のブックカフェ「シズカ」のほうにずんずん歩いていく。高島の妻と相田の夫がそれを見送る)

(幕)

作・千早亭小倉

[コント台本・小説500本]

主な舞台は、椎名町三丁目から広がる箱庭「ここあん村」。箱庭コント作家・千早亭小倉の手による、どこか懐かしい日常劇やクスッと笑えるコメディ、沁みる掌編を絶賛公開中です。これからも「読むシットコム」の世界を追究していきます。
*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。 *The articles on this site were written by a human, peppered with AI. *無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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