コント「ロンリーローメーカー」

【登場人物
たたこ:19歳。ガールズバンド「栗きんとん99」のドラマーであり、ここあん村唯一の議員。スティックで世界と繋がるマイペースな姉御肌。
矢尾 リリカ:18歳。ここあん高校の生徒。世の中を冷めた目で分析する「冷たい最強」。
矢尾 太陽:リリカの弟。姉の論理が通用しない、怖いもの知らずの小学生。

【場面設定】
夕暮れ時。小古庵アトリエ村の公民館前。ドラムの練習を終えたたたこが、スティックを指先で回しながら出てくる。入り口のベンチでは、リリカがスマートフォンを操作し、太陽がノートを広げている。

太陽:ねえ、リリカ。ここあん村の議員さんって何人いるの? 学校の「社会を知る」って宿題で書かないといけないんだけど。

リリカ:(スマートフォンの画面から目を離さずに)お姉ちゃんね、呼び捨てにしないで。ええと、ネットの村勢要覧によると、定数1。定数1? で、現職1。議会制民主主義の概念が根本からバグってるわ。

(そこへ、たたこが通りかかる)

たたこ:よお。姉弟揃って難しい顔して、宿題の旅人算が解けないってか?

リリカ:似たようなもん。でも、いちばんぴったりの人が来た。ここあん村の「現職1さん」だもの。ねえ、弟の宿題の被験体になってくれない?

たたこ:被験体? 叩くのには慣れてるけど、逆は慣れてないんだよね。まあ、リリカは選挙権があるし、いいよ、そんなに時間取られないなら。

リリカ:太陽、たたこさんがOKだって。

太陽:わーい。ねえ、たたこ、なんでこの村に、議員さんがひとりしかいないってほんと? なんで、ひとりなの? 寂しくない?

たたこ:この村には、登録村民が150人しかいないからな。議員がひとりってのは、適正な人数なんだよ。

リリカ:ちょ、ちょっと、150人? 嘘でしょ。うちの高校の生徒数だけでももっといるわよ。

たたこ:ここは、「文化芸術復興特区」みたいなもんだろ? 作家だの図書館員だの、頭の中だけで生きてるような連中ばっかりで、そんなのが、200人も300人もいるほうが怖いわ。

リリカ:なるほどね。行政の枠組みから外れた、モラトリアムの吹き溜まりってわけか。でも、いくら人口150人の小さな村でも、議会を名乗るなら、最低でも数人は議員が必要なはずよ。定数がひとりなんて、聞いたことがないわ。それに、なんでたたこさんだけなの?

たたこ:細かいことは、テヘペロ村長に聞きなよ。緑野翠が決めたようなもんだし。あたしはただ、議会って名のリズム隊を任されてるだけさ。

太陽:リズム隊?

たたこ:そうだ。あの村長が、謎のタワーのフロアを高校や大学に貸すとか、スーパー人生の前に銅像は建てさせないとか、わがままなメロディを奏でようとするだろ? そういう時、裏拍でスネアを入れて「待った」をかける奴が必要なんだよ。それができるのは、あたししかいなかった。それだけさ。

太陽:かっこいい! たたこお姉ちゃん、議案提出数トップなんだよね!

リリカ:ひとりしかいないんだから、紙を一枚でも出せば自動的にトップよ。シェア100パーセント。それより、一人でどうやって多数決を取るの。村長の提案にあなたが反対したら、1対1で同数になるじゃない。

たたこ:……ん? 多数決?

リリカ:ええ。

たたこ:テヘペロ村長より、あたしが1秒でも先に、スティックで「否決!」って机を叩けば、それで決まりよ?

リリカ:(絶句して)民主主義が、ドラムのビートで決まる村。カミュも匙を投げるレベルの不条理ね。

太陽:じゃあ、僕もドラムの練習したら、議員になれるね!

たたこ:おう、いつでも来な。あたしだって19歳で議員になったんだ、太陽がその最年少記録を塗り替えてみせな。ツインドラムなら、もっとでかい音が出せるからな。

太陽:わーい。リリカおねえちゃん、議員夫人だね。

リリカ:太陽、本気にしないの。それに、なんで、私が議員夫人になるのよ。

(たたこが笑いながらドラムスティックを空中に放り投げてキャッチする。リリカは深くため息をつき、スマートフォンの画面を閉じた)

(幕)

作・千早亭小倉

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