箱庭小説「ステキさんのインデックス」

雨が降っている。

リビングの大きな窓を叩く雨粒の音は、まるで無数の小さな手で拍手をもらっているみたい。世界がこぞって、今日のステキさんの完璧なスキンケアを祝福してくれているのね。

ソファの端では、プリンちゃんがまた、表紙の真っ黒な難しそうな本を読んでいる。

「おはよう、プリンちゃん。今日も雨の音がステキね」と声をかけると、あの子は本から目を上げず、「ただの低気圧による水分の落下よ。気圧の変化で頭痛がするわ」と、氷のように冷たい声で返してきた。

まあ、なんてステキな冷たさかしら。

あの子が放つその冷たい視線と、突き放すような言葉。それは、ステキさんという最高級の生鮮食品の鮮度を保つために用意された、上質な冷蔵庫の冷気そのもの。

あの子が私を冷たく見下し、否定的な言葉を投げつけるたびに、ステキさんの細胞はきゅっと引き締まり、世界で一番美しい状態へと保たれていくの。プリンちゃんは、私が私であるために、毎日せっせとドライアイスを運んでくれる、とっても健気でステキな守護天使ね。

ふと、テーブルの上に置かれたパパの胃薬の瓶が目に入る。

パパは最近、胃が痛いと言ってよく顔をしかめている。可哀想に。でも、人間って不思議ね。身体の中に痛みを抱えることで、初めて自分の輪郭を確かめているみたい。パパのその胃の痛みは、ステキさんという圧倒的な光の隣にいるための、小さな影の役割を果たしてくれているのね。光が強ければ強いほど、影は濃くなるもの。パパの胃痛は、私の輝きの証明書だわ。

私は、冷めたオーガニック・ハーブティーのカップをシンクに下げると、鼻歌まじりに冷蔵庫の扉を開けた。

庫内の冷たい空気が、ふわりと私の頬を撫でる。

一番上の棚には、太陽が公園から拾ってきた泥だらけのどんぐりが、マカロンの空き箱にぎっしりと詰められて冷やされていた。

「もう、太陽ったら」

私はそれを取り出し、うっとりと目を細める。

「ママのために、こんなにたくさんの『オーガニックな天然の泥パック』を冷やしておいてくれたのね。冷感美容で毛穴が引き締まるって、一体どこで覚えたのかしら」

リビングのソファから、プリンちゃんが「それはただのゴミよ。不衛生だから捨てて」と冷たい声を投げかけてくるけれど、私の耳には届かない。

泥パックを両手に抱え、私は冷蔵庫の扉のガラス面に映る自分の顔に向かって、最高の微笑みを作ってみせた。明日のステキさんは、今日よりもっと美しくなってしまうわ。

(了)

作・千早亭小倉

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

ものがたり
higashiboctokをフォローする
タイトルとURLをコピーしました