移動図書館

箱庭小説

移動図書館日記(106)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。あえて旧道の峠道を選んだ。バイパスの単調な景色を嫌って。助手席には菜箸千夏さん。彼女の「優等生」な横顔をからかってしまったことを反省する。少しの気まずさが、エンジンの振動と共に私の指先に伝わってくる。...
箱庭小説

移動図書館日記(105)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。遠野の街なかを貫く国道を、東へ向かって走っている。助手席には菜箸千夏さんが乗っている。普段はひとりでハンドルを握ることがほとんどなので、隣に誰かが座っている状況は、ひどく新鮮で不思議な感覚だった。昨晩...
箱庭小説

移動図書館日記(104)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。仙台での用事を済ませ、新花巻から釜石線に揺られてやってくる菜箸千夏さんを、遠野駅まで車で迎えに出た。私が住む鱒沢の駅で降りてもらってもよかったし、なんなら仙台か新花巻まで迎えに行こうかとも提案したのだ...
箱庭小説

移動図書館日記(103)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。菜箸千夏さんが遠野へやってくる日が、少しずつ近づいている。彼女がこちらへ向かう道のりや、どんな景色を抜けてくるのかを地図で想像しているうちに、ふと、ボランティアとして沿岸部へ通っていた頃のある情景が蘇...
箱庭小説

移動図書館日記(102)遠野編

これは、日記の名を借りた、中野文の記憶。三月の遠野は、カレンダーの数字ほどには春を感じさせない。雪解けが進むにつれて、庭の土は泥濘ぬかるみとなり、湿った土と古い雪が混じり合った、この地特有の重たい匂いが鼻をくすぐる。ここあん村の図書館から、...