箱庭コント「形容のサボタージュ」(台本)

【登場人物】
ケイヨウ
:ここあん高校生(元文芸部)。現象をやたら長く詩的に描写する耽美主義者だが、最近は短い言葉で対象を切り捨てようと迷走中。
パパ:ここあん高校生(元文芸部)。別名、ゴッドファーザー。対象に短い「名前」を与える設定派。自分の領分を侵されて怒る。
矢尾リリカ:ここあん高校生(B組)。シニカルな女子生徒。無駄な会話をタイパが悪いと一蹴する。
黒崎文:ここあん高校生(A組)。文芸部部長。文学の魂を絶対視し、安易な表現を「駄文」と切り捨てる。

【場面設定】
ここあん高校、ペンタ下層階にある空き教室。放課後。

ケイヨウ:最近のウェブ小説だが、ただの「高精度感情シミュレーター」が、ランキング上位に並んでいるな。

パパ:おい、ケイヨウ。お前、今なんて言った。

ケイヨウ:ん? 読者の承認欲求を安全な場所から満たすための「安全型カタルシス供給システム」だと言ったんだ。

パパ:なんか、違うことを言っていたようだが、まあいい。で?

ケイヨウ:現代の音楽も同じだ。イントロを飛ばしてサビだけを消費する。あれはもはや音楽ではない。「聴くタイプの抗不安薬」だよ。

パパ:お前、キャラがぶれているぞ。事象を病的なまでに長く詩的に描写するのがお前の役目だろう。冬の朝に蛇口から滴る最後の一滴がどうとか言って、俺たちをうんざりさせるのがお前のアイデンティティだったはずだ。短く断定的な名前を与えるのは、「ゴッドファーザー」と呼ばれるこの俺の領分だ。

矢尾リリカ:(文庫本から目を上げずに)どっちも生産性がないわ。

ケイヨウ:リリカ君、これはタイパへの適応なんだ。僕の流麗な修辞も、現代の消費速度に合わせて圧縮する時代になった。無駄な描写を削ぎ落とした結果、この研ぎ澄まされた表現に辿り着いたのさ。

パパ:研ぎ澄まされた結果、ただのレビュー欄の感想になっているじゃないか。俺の命名は対象に新たな意味を付与するが、お前のそれは対象を貶めているだけだ。

リリカ:パパの言う通りかも。ケイヨウ、あなたのは描写でも命名でもない。ただの『レッテル』よ。

ケイヨウ:レッテル!?

(教室のドアが開き、黒崎文が入ってくる)

黒崎文:駄文の匂いがすると思ったら、やはりお前たちか。

パパ:黒崎部長、いや、黒崎元部長。

:あんたたちが元部員なだけで、私は元部長じゃないわよ。

パパ:悪かった、黒崎おれたちにとって元部長。それより聞いてくれ。ケイヨウが俺の命名のフォーマットを真似て、最近の小説を「高精度感情シミュレーター」などと呼んでいる。

:(ケイヨウを冷たく見下ろし)ケイヨウ。あんたは事象の表面を舐めるだけの冗長な比喩に逃げる臆病者だと思っていたが、ついに言葉を尽くすことすら放棄したか。

ケイヨウ:放棄したわけじゃない。これは現代社会の空虚さを端的に表すための、新しい修辞技法なのだよ!

:黙れ。それは、文学への明らかな敗北宣言だ。対象と向き合って血を流すこともせず、安全な場所から短い言葉で切り捨てる。それは形容ではない。「ワルクチ」だ。

ケイヨウ:ワルクチ!?

リリカ:今日からあなたの名前は「レッテル」アンド「ワルクチ」ね。ケイヨウなんて高尚な名前、名乗る資格ないわ。

ケイヨウ:僕の耽美なアイデンティティが、ただのインターネットの荒らしと同じレベルに分類されるなんて。

:自業自得だわ、ワルクチ。さあ、その「高精度感情シミュレーター」とやらの設定を、原稿用紙十枚を使って血反吐を吐きながら形容してみなよ。できなければ、今日からその名前で固定するだけだから。

ケイヨウ:原稿用紙十枚。まるで、終わりの見えない砂漠にティースプーン一本で放り出されたような、喉を焼き尽くす乾きと途方もない絶望が!

パパ:お、元の面倒くさいやつに戻ったな。

リリカ:どっちにしろ迷惑なのには変わりないけどね。

(幕)

*ここあん村および本サイトに掲載している小説類の設定はフィクションです。
*The articles on this site were written by a human, peppered with AI.
*無断転載禁止 Copyright © 2025 千早亭小倉|箱庭コントを紡ぐ 話紡庵レーベル All Rights Reserved.

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