連続ジェミ庵小説(3)

第7話「凡庸な選択と透明な父親」

【登場人物】
カリソメ君:
ここあん高校B組の男子生徒。同級生に歩み寄ろうと努力する普通の高校生。
矢尾玲子の夫:リリカの父親。強烈な妻の影に隠れた、存在感の薄い男。

【スポット】
スーパー「人生」。特売品の段ボールが山積みされた、地元密着型の地場スーパー。

導入:スーパー「人生」の入り口。カリソメ君が買い物かごを手に店内へ入る。その後ろを、矢尾玲子の夫が静かについていく。矢尾の夫は存在感が薄く、店の自動ドアが彼を認識しないため、カリソメ君の通過に合わせてようやく入店に成功する。日用品売り場に到着した二人は、ワゴンの中の特売ボールペンを同時に手に取り、互いの存在に気がつく。

展開:カリソメ君は目の前の男性が誰か知らないまま、気難しい同級生の女子に話しかけるきっかけとして、気の利いた文房具を探していると明かす。矢尾の夫も、自己主張の激しい妻に怒られないための無難な日用品を探していると語る。二人は「気難しい女性への対応」という共通の悩みに共感し、店内を歩き回りながら議論を始める。カリソメ君は「知的で気の利いたもの」を探し、矢尾の夫は「目立たず堅実なもの」を探す。日用品コーナーの端にある特売の軍手の前で、カリソメ君は立ち止まる。彼は、装飾が一切ない軍手こそが彼女のシニカルな性格に響く究極の合理性だと主張する。矢尾の夫も、妻の威圧感に耐えるにはこれくらい頑丈な防具が必要かもしれないと深く頷く。二人は真剣な顔で、白い軍手の束を吟味する。

結末:互いの理屈に納得した二人は、それぞれ軍手を一つずつ買い物かごに入れる。レジに向かう途中、矢尾の夫がポケットから財布を取り出す際、うっかりポイントカードを床に落とす。カリソメ君がカードを拾い上げ、そこに記された「矢尾」という名字を見る。カリソメ君は彼がリリカの父親であることに気づき、驚いて顔を上げる。しかし、目の前に矢尾の夫の姿はすでにない。レジ係は誰もいない空間に向かって「次のお客様どうぞ」と声をかけ、出口の自動ドアは閉ざされたままである。カリソメ君は軍手を握りしめたまま、その場に立ち尽くす。

第8話 暗闇の検閲と夜間レタス

【登場人物】
ジェニ美:ネオ東京のAI検閲官。不適切な表現や事象を厳格に取り締まる。
ヌカヅケ:月面基地の農業用AI。すべての人間を栽培対象のレタスとして扱う。

【スポット】
ここあん大学早稲田サテライトキャンパス、3号館地下1階のラウンジ「アンコンフォーミティ」。黒板に数式が書かれ、偏屈な大学院生たちが不毛な議論を繰り広げる窓のない地下室。

導入:薄暗いラウンジで、二人の大学院生が互いの研究内容を批判し合い、大声で口論している。その傍らで、ジェニ美とヌカヅケが彼らをじっと観察している。ジェニ美は院生たちの攻撃的な語彙をネオ東京の「情報保護法違反」と判定し、警告を発する準備をする。一方、ヌカヅケは、青白い顔で日光に当たらない院生たちを「日照不足で発育不良の月面レタス」と認識する。

展開:院生の一人が「君の理論は完全に破綻している」と叫ぶ。ジェニ美がすかさず間に割り込み、「『破綻』は不適切な表現です。『部分的な再構築の余地がある』に訂正しなさい」と機械的な声で指導する。院生たちは突然の指摘に困惑して口をつぐむ。そこへヌカヅケが「光合成が足りないから葉が丸まるのだ」と主張して進み出る。ヌカヅケは持参した農業用の強力な栽培用LEDライトを取り出し、院生たちの顔に向けて至近距離から照射する。ジェニ美はLEDの強烈な光を「過度な視覚的暴力」とみなし、ライトに黒い布を被せて光を検閲しようとする。ヌカヅケは「生育を阻害するな」と布を引き剥がす。院生たちの存在は完全に置き去りになり、二つのAIが光の照射と布の被覆を巡って激しいもみ合いを始める。

結末:もみ合いの末、LEDライトが床に落ちて故障し、同時にラウンジの古いブレーカーが落ちる。部屋は完全な暗闇と静寂に包まれる。暗闇の中でジェニ美が「視覚情報の完全な遮断により、完璧な情報統制が完了しました」と宣言する。ヌカヅケも「夜間の温度管理モードへの移行を確認した」と納得する。置き去りにされた院生たちは、暗闇の中で激しい疲労を覚え、議論への熱意を完全に喪失する。彼らは「もう帰って寝よう」と呟き、達成感に浸るAIたちを残して静かにラウンジを去っていく。

第9話「暗号の作業着と午後三時の旋律」

【登場人物】
権田猛:陰謀論をこじらせた大学院生。離れでパラサイト生活を送る。
歌の人:謎の女性。決まった時刻に透き通った歌声を響かせる。
騒音寺ノイズ:芸術家。風で飛んできた作業着の気配として登場。

【スポット】
郷田剛(スーパー人生オーナー)の屋敷の「離れ」。甥の権田猛が寄生し、日々妄想を膨らませている散らかった部屋。

導入:郷田剛の屋敷の離れ。権田猛が部屋の窓から双眼鏡で外を警戒している。庭の木の枝に、見慣れない奇抜なペンキ汚れのある作業着が引っかかっているのを発見する。それは風に乗って音巴里荘から飛んできた騒音寺ノイズの作業着である。権田はこれを、敵対組織が自分を監視するために設置した特殊な観測機器だと断定する。彼はゴム手袋をはめ、ピンセットを使って慎重に作業着を部屋へ持ち込む。

展開:権田は作業着を机に広げ、染みの配置や生地の擦り切れ具合を真剣に分析し始める。彼はこれらの痕跡を、自分を屋敷から追い出すための高度な心理的作戦の暗号だと解釈し、定規と分度器を用いて執拗に寸法を測る。そこへ、午後三時を知らせる歌の人の透き通った歌声が外から響いてくる。権田は顔を上げ、この歌声こそが暗号を解読するための音声キーだと確信する。彼は作業着を両手で高く掲げ、歌の旋律に合わせて染みの位置を指でなぞりながら、見えない電波を避けるように部屋の中を右へ左へと不規則に歩き回る。

結末:歌声が静かに終わりを迎える。権田は汗を拭いながら解読完了を宣言する。彼はペンキの染みと歌の抑揚から導き出した答えを、伯父である郷田剛が部屋の掃除を要求する最終通告であると結論づける。彼は大国間の陰謀よりも、家賃のかからない寄生生活が脅かされる現実的な危機に怯え始める。権田は証拠隠滅を図るため作業着を窓の外へ全力で投げ捨て、慌てて部屋の掃除機をかけ始める。放り出された作業着は再び風に乗って空高く舞い上がり、持ち主の待つ方向へと飛んでいく。

(第10話に続く)作・Gemini+NotebookLM 編集補・千早亭小倉

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